小林薫×阪本順治「天狗だった30、40代を越えて」 70歳、63歳になった今だからこそ語れること

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考え方を変えてからも、徹夜になってしまう場合もあります。ですが、彼らの仕事を想像して指示を出すようになりました。「これから片づけに2時間かかり、明日の準備に2時間かかる。たぶん、睡眠は3時間か4時間だな」などと想像したうえで、「ごめん。この日は……」と、伝えるようになりました。今は年齢的に自分のほうが先に疲れるので、徹夜もしなくなりましたが。

思い出すと、恥ずかしい言動ばかり

小林 薫/1951年9月4日生まれ。京都府出身。唐十郎主宰の「状況劇場」に参加。退団後、『はなれ瞽女おりん』(77/篠田正浩監督)で映画初出演。『十八歳、海へ』(79/藤田敏八監督)で報知映画賞新人賞を受賞する。以後、映画・舞台・ドラマ・CMなどで幅広く活躍。名実ともに日本を代表する俳優の1人。近年の主要な映画出演作に『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(07/松岡錠司監督)、『歓喜の歌』(08/松岡錠司監督)、『海炭市叙景』(10/熊切和嘉監督)、『舟を編む』(13/石井裕也監督)、『旅立ちの島唄 〜十五の春〜』(13/吉田康弘監督)、『深夜食堂』(15/松岡錠司監督)、『武曲 MUKOKU』(17/熊切和嘉監督)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18/豊田利晃監督)、『夜明け』(19/広瀬奈々子監督)、『ねことじいちゃん』(19/岩合光昭監督)、『日本独立』(20/伊藤俊也監督)、『花束みたいな恋をした』(21/土井裕泰監督)、『Arc アーク』(21/石川慶監督)など。公開待機作に『はい、泳げません』(22年6月/渡辺謙作監督)がある(撮影:梅谷秀司)

――30代、40代の頃のご自身に、言ってあげたいことはありますか? 読者の仕事人生の、参考になるかもしれません。

小林:思い出すと、恥ずかしい言動ばかりです。ですが、昔も今もそれほど完成された人間ではないので、仕方がないのかな、と。阪本監督は「天狗だった」とおっしゃっていましたが、僕もそういう面は多々あったかもしれません。30代、40代で一度は“生意気盛り”になっておかないと、というか。

振り返って反省しても、何も生まれないと思うんです。そういう自分を含めて受け入れていかないと。「あのときの自分は間違っていた」と、この年になって言うのはちょっと卑怯な気がするんですよね。若いときとずっと同じ気持ちでいますという意味ではなく、若い頃の自分もある程度背負わないと、という感覚です。

阪本:小林さんのおっしゃるとおりで、僕も「今さら何を言っても」という感じです。ただ、「傷つけられた記憶より、傷つけた記憶のほうが残るよ」という言葉は贈るかもしれません。

小林:僕は、傷つけた側は意外と忘れてしまうと思うんですよね。「そんなこと、しましたっけ」程度の、うっすらとした過去になっている。傷つけられた側は鮮明に覚えているのに。そのギャップがあるので、気づかないうちに人を傷つけている可能性があると捉えておいたほうがいいのかもしれません。

阪本:そうして考えても、30代や40代の読者の方に僕たちが言えることはあまりないかもしれません。読者より先に年齢を重ねた僕にサジェスチョンしてほしいと言われても……できないですね。世代が違いますから。「時代が違う」という現実は連綿と繰り返されてきたと思いますが(小林さんが阪本監督の意見に「うん、うん」と頷く)。

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