小林薫×阪本順治「天狗だった30、40代を越えて」 70歳、63歳になった今だからこそ語れること
考え方を変えてからも、徹夜になってしまう場合もあります。ですが、彼らの仕事を想像して指示を出すようになりました。「これから片づけに2時間かかり、明日の準備に2時間かかる。たぶん、睡眠は3時間か4時間だな」などと想像したうえで、「ごめん。この日は……」と、伝えるようになりました。今は年齢的に自分のほうが先に疲れるので、徹夜もしなくなりましたが。
思い出すと、恥ずかしい言動ばかり
――30代、40代の頃のご自身に、言ってあげたいことはありますか? 読者の仕事人生の、参考になるかもしれません。
小林:思い出すと、恥ずかしい言動ばかりです。ですが、昔も今もそれほど完成された人間ではないので、仕方がないのかな、と。阪本監督は「天狗だった」とおっしゃっていましたが、僕もそういう面は多々あったかもしれません。30代、40代で一度は“生意気盛り”になっておかないと、というか。
振り返って反省しても、何も生まれないと思うんです。そういう自分を含めて受け入れていかないと。「あのときの自分は間違っていた」と、この年になって言うのはちょっと卑怯な気がするんですよね。若いときとずっと同じ気持ちでいますという意味ではなく、若い頃の自分もある程度背負わないと、という感覚です。
阪本:小林さんのおっしゃるとおりで、僕も「今さら何を言っても」という感じです。ただ、「傷つけられた記憶より、傷つけた記憶のほうが残るよ」という言葉は贈るかもしれません。
小林:僕は、傷つけた側は意外と忘れてしまうと思うんですよね。「そんなこと、しましたっけ」程度の、うっすらとした過去になっている。傷つけられた側は鮮明に覚えているのに。そのギャップがあるので、気づかないうちに人を傷つけている可能性があると捉えておいたほうがいいのかもしれません。
阪本:そうして考えても、30代や40代の読者の方に僕たちが言えることはあまりないかもしれません。読者より先に年齢を重ねた僕にサジェスチョンしてほしいと言われても……できないですね。世代が違いますから。「時代が違う」という現実は連綿と繰り返されてきたと思いますが(小林さんが阪本監督の意見に「うん、うん」と頷く)。
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