フランス襲う「極右テロのリスク急増」の複雑事情 再選したマクロン氏に求められる分断への対処
こうした状況に、不満を持つフランス国民もいる。
フランス東部ロレーヌ地域圏のモーゼル県メッスのトルコ系イスラム教礼拝堂モスクで今月6日早朝、何者かによって火炎瓶が投げ込まれる事件が発生した。同市の検察は「犯人を今の時点では特定できていない」と述べ、ロレーヌ地域圏のグロスディディエ知事は、ツイッターで「イスラム嫌悪の行為であることは明白だ」と非難した。
フランスでは過去にもイスラム教徒の墓が荒らされ、墓石にナチズムの鉤十字の落書きがされたり、モスクが放火されたりする事件は多発している。テロが起きるたびに学校ではアラブ系の生徒がいじめられるという問題も起こっていた。
極右政党が着実に票を伸ばしている理由
4月14日には、パリ西方郊外のオー=ド=セーヌ県北部のセーヌ河に架かるクリシー橋でヒジャブを被った24歳と23歳のイスラム女性2人が、警察官に数回殴打されたとして訴える事件が発生した。
警察官によれば、当時、違反車両をパトカーで追跡中、橋の上で突然、サイレンを鳴らすパトカーの走行を妨害するように2人の女性が道を横断し、パトカーは急停止を強いられたという。
警官らは車を降り、女性たちの取り調べを始めた際、公道での着用が禁じられているヒジャブ着用を注意しても無視されたので、無理やりヒジャブを引きはがそうとして抵抗されたと証言した。しかし、女性らは殴られたと主張し、公権力乱用、イスラム嫌悪主義、人種差別として司法に訴えている。
この種の裁判では本来、警察側が有利なはずだが、今は司法が警察官を無罪とすると、アラブ系移民の若者たちが騒乱を起こす可能性がある。アメリカ同様、警察権力を少しでも強く行使すると反発され、警察署が襲撃される事件が頻繁に起き、暴動も何度も起きている。
一方、警察官組合からは公務執行妨害行為や、ヒジャブ着用を非合法と見なさない判決が出た場合、公務を遂行できなくなるとの不満の声が上がっている。明らかに追跡されていた車両を守るため、パトカー走行を妨害したにもかかわらず、女性らは違法なヒジャブ着用を棚に上げ、警察権力の乱用による暴力と批判する。このようなことを頻繁に目撃してうんざりするフランス人がいることは否定できない。
しかし、表立って不満を口にすれば差別主義者の烙印を押されるので沈黙せざるをえない。
そのため、選挙があるたびに移民問題を正面から取り上げる極右や右派に票が集まる。4月の大統領選挙でマクロン氏に敗れた右派・国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏は今回3度目の挑戦だったが、毎回大統領選で得票率を伸ばし、今回は最多を記録した。国家主権の回復を掲げるRNにとって移民・治安問題は優先課題の1つだ。
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