フランス襲う「極右テロのリスク急増」の複雑事情 再選したマクロン氏に求められる分断への対処

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最近フランスで注目されているのが、ネオナチ活動家のレミ・ダイエ=ヴィドマン被告だ。少女誘拐に関与した容疑で逮捕され、テロリストとしてアルザスでの裁判を控えている。

クーデターとテロ計画を持っていたとされる同被告は、マクロン大統領を暗殺する「アズール作戦」を率いていたとされ、「名誉と国家」という急進的極右グループとの関係も判明している。

また2021年9月には、19歳の男がテロを計画していたとしてDGSIによって拘束され、テロ準備罪で起訴された。フランス西部ルアーブル出身の男は、2022年4月20日のアドルフ・ヒトラーの誕生日に大量殺戮の形でテロ攻撃を計画していた。男が住んでいた住宅から押収されたノートの書き込みから、標的は男の通っていた高校と近くのモスクだった。

捜査関係者によると、男はヒトラーを崇拝する人種差別主義者の「白人で民族主義的な戦闘員」で、幼いころからいじめに遭い、孤独な若者だったという。逮捕後、「政府は、過激なイスラム主義との戦いで十分なことをしていない」「外国人の犯罪は増加している」と主張し、極右思想に傾倒していることが認められた。

一方、捜査当局は、学校で嫌がらせを受けていたことから男の友人となった18歳の女子高校生の捜査から、男に行き着いたとしている。その女子高生は、男とは真逆のイスラム過激主義に傾倒し、昨年の復活祭のときに高校とカトリック教会を攻撃する計画を立てていたことが発覚し、2020年4月に逮捕された。

若者が極右思想や過激なイスラム聖戦主義の勧誘を受けている実態が浮かび上がった。

マクロン政権2期目は内患外憂

エネルギー価格や物価上昇を抑え、購買力を伸ばし景気足踏み状態を脱することが急務のフランスは、欧州連合(EU)の牽引役として、ドイツとともにウクライナ戦争への対応やウクライナのEU加盟の高度な判断を迫られている。さらに北大西洋条約機構(NATO)加盟申請に意欲を見せるフィンランドやスウェーデンへの対応もあり、冷戦後の世界の枠組みをロシアによって書き換えられた現実に向き合うことも迫られている。

同時に内政では経済問題だけでなく、移民・治安問題、ネオナチを含む極右、極左、イスラム過激勢力間の対立という社会の分断への対処を迫られている。過去にない顕著な分断は、皮肉にも中道政治を標榜するマクロン政権に重くのしかかっている。

6月に予定される国民議会(下院)選挙で、自身の支持基盤である中道の共和国前進(REM)が過半数を取れず、逆にメランション氏が率いる左派連合が過半数の議席を獲得するようなことがあれば、決められない政治が待っている。

さらにREMで過半数が取れず、中道右派のLRと連立を組む場合でも、極右やRNが議席を伸ばした場合、政権運営は難しくなる。それに1期目のように圧倒的議席をREMが占めた時のような大胆で一方的な改革は断行できない可能性があり、そこに極右ネオナチやイスラム過激派のテロが起きる可能性も高い。再選を祝っている暇はマクロン氏にはなさそうだ。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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