上司が「席に仕切り」を作りたがらない本当の理由 部下の姿が見えない上司の「憂鬱」が関係?

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こうした調査結果からは、テレワークで部下が目の前にいない管理職の不安やストレスが伝わってくる。現場で管理職に聞き取りをしても、ほぼ同様の声が聞かれる。

ところがコロナ禍以前からテレワークを取り入れている欧米企業のマネジャーから、このような声はまったくといってよいほど聞かれないという。部下がいる、いないに関係なくテレワーク生活に満足しているように見える。

日本と欧米の差はどこにあるのか?

こうした違いについて、もっとも説得力のある説明はつぎのようなものだろう。

欧米では職務主義が徹底されているので、一人ひとりの役割・責任が職務記述書(job description)に明記されている。したがって役割を果たしているか否か、だけを定期的にチェックすればよい。

それに対し日本では一人ひとりの分担が明確でなく、上司と部下が協力して行うような仕事が多い。上司がちょっとした用事を部下に頼むこともある。そのためテレワークで部下が目の前にいないと仕事に不都合が生じるし、部下がサボっていないか、仕事が順調に進んでいるかどうかが気になるのだ。

要するに日本の会社は集団主義で仕事の分担が明確になっていないから、テレワークだと仕事や管理に支障が出るというわけである。ちなみにコロナ禍よりずっと前に行われた研究では、同じ日本企業でも集団主義的な企業のほうが、個人主義的な企業よりテレワークの導入に消極的なことが明らかになっている(下﨑千代子「テレワークと日本的人事システム変革の適合と矛盾」『国民経済雑誌』第一八四巻第一号、2001年)。

たしかに日本特有の働き方が、上司の不安やストレスの大きな原因であることは間違いなさそうだ。しかし、それだけだろうか? 自他共に納得するその理由の背後に、別の理由が隠れていないだろうか?

興味深い事実がある。グローバル企業の多くは世界共通の職制、人事制度を取り入れており、日本支社でも欧米と同じように個人の分担が明確に決められている。ところがオフィスを見学すると、はっきりとした違いが目に入る。

海外では管理職は個室で仕事をするのが普通であり、非管理職のデスクもパーティションで仕切られているのに対し、日本では管理職も大部屋で、デスクも仕切りがないか、あっても高さの低いところが多い。

理由を尋ねると、主に管理職が「大部屋、仕切りなし」を望むからだという。そしてコロナ禍以前から、日本ではテレワークの導入に賛成しない管理職が多いという話がよく聞かれた。

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