「知床遊覧船」社長会見に強烈な怒りが募った訳 ずさんな姿勢が露呈、10秒の土下座も意味なし

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また、桂田社長は経験の浅い船長が舵を握ることになった経緯についても、「通常だと3年くらい(ベテラン船長について)甲板員をやっていく形を採っていました。豊田さんに関しては『素晴らしいセンスがある。来年でもいける可能性はある』とシーズンの終わりには(ベテラン船長が)言っていました。水上バスとかを運転していたり、そういうところから(船長にする)という判断もございます」と話していました。

ここでも“ベテラン船長”に判断を丸投げしていたことは明白であり、桂田社長自身その危うさと罪深さに気づいていないから、自らこんなことまで明かしてしまうのでしょう。

今回の会見で最も残念だったこと

そして最後にもう1つ、言ってはいけないフレーズとして挙げておきたいのが、被害者家族に対して語った「私ができる限りのことをやってあげたい。それしか私には今考えることができないと思いました」というコメント。

なぜ桂田社長は「やってあげたい」という言い方しかできなかったのか。それは「自分が加害者である」という意識がまだまだ薄いからでしょう。「自分は加害者」という意識があればおのずと「できる限りのことをやらせてください」というフレーズが浮かぶものであり、やはり「誰かに責任転嫁したい」という感情から抜け出せていないのです。

桂田社長は被害者家族の反応について、「やはりやり場のない感情を含め……私としては精一杯それを受け止めるだけになってしまいました」ともコメントしていました。この「私としては」「精一杯」というフレーズも、保身の気持ちがにじみ出たものでしょう。

会見中、桂田社長は質問から回答までに十数秒かかることが何度もありました。無言の時間が多かったのは、ふだんからリスクをシミュレーションしないなど、危機管理できていないことの証でしょう。だからこそアクシデントが起きたとき、急に対処できず、これほど心証の悪い会見になってしまうのです。

受け答えを見る限り、桂田社長は仕事や人の管理がかなりずさんなものの、「根っからの悪人」と感じた人は少ないのではないでしょうか。しかし、人の命を預かる仕事である以上、ずさんであることは、最も許されず、何よりも罪深いものです。

今後は被害者家族と向き合い続けるのは当然ですが、国、同業他社、専門家などにすべての情報を開示することで、せめて再発防止につなげてほしいところ。今回の会見で最も残念だったのは、桂田社長にそんな姿勢が見えなかったことでした。これでは「会見を開いた意味はなかった」と言われても仕方がないでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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