なんというか、実に不思議な心持ちであった。お金がないから「買いたくても買えない」ってことはこれまでだって何度も経験した。でも、お金があろうがなかろうがそもそも「買いたくても買えない」なんて、どう考えても人生初の異常事態である。なんというか、これはこれで寂しいというか物足りないような気もして、どうもフクザツである。
「食べもしないもの」を買いまくっていた日々
こんな妙チキリンな日々を過ごすうちに、私はふと気づいた。
いうまでもなく、私という人間は、冷蔵庫を使っていようが使っていまいが同一人物である。つまりは急に少食になったとか、そういうことはまったくない。それなのに、冷蔵庫をやめた途端、食べ物を買う量が激減した。当然、それに使うお金も激減した。
ってことは……結論は一つしかないのであった。
私はこれまで、ずーっと長い間、「食べもしないもの」を、来る日も来る日も貴重なお金を使って、買って買って買いまくっていたんである。
なぜそんなことをしていたのかといえば、それは冷蔵庫があったからだ。「とりあえず冷蔵庫」に入れておいて、いつか食べれば良いと思っていたからだ。だからこそ、カゴいっぱいに食品を詰め込んで、2480円とか当たり前にレジで支払っていたのである。
もちろん「いつか」食べることもあった。でも考えたくないことだが、圧倒的に多くのものは、その「いつか」が来ぬまま冷蔵庫の奥へと追いやられてすっかり忘却の彼方。何かの拍子に発掘された時にはとっくに干からび、かび、あるいは腐ってベトベトになり、顔をしかめて捨てられていたに違いないんである。
だって、こうして冷蔵庫をなくしてあらゆるものをちゃんと「食べきって」みればどう頑張っても数百円程度のものしか買えないってことはですよ、その差額の1000円とか2000円とかで買ったものは、結局ゴミ箱行きになっていた可能性しかないではないか。
いやはやなんということでしょう!
その事実も恐ろしいが、もっと恐ろしいのは、もし私が冷蔵庫をやめていなければ、きっと死ぬまでその事実に気づくことはなかったに違いないということだ。
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