「誇りに思う」聾(ろう)の若者が堂々と語る理由 聾者の高校生と自閉症の兄がいる弟たちの挑戦

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聾文化について、奥田さんがぜひ社会で知ってほしいと思っていることがある。それは「聾者は人に声をかけるとき、相手が先輩でも上司でも肩をたたくこと」。ただし、目上の場合は礼儀として肩を縮こませる。

だが、聾者が聴者の肩をたたくと驚かれたり、誤解されたりしやすい。奥田さんは、こう考える。

「聴者の文化では、先輩や上司の肩をたたくことは失礼にあたります。聾学校でも先生の肩をたたいたとき、『ビックリする』『声をかけることがマナー』と注意されました。しかし、肩をたたくことは聾文化の1つです。聾者の集まる学校でそれを否定し注意するというのは、聾文化を否定されているように感じました」

このように、奥田さんは聾者のコミュニティーで育った影響もあり、率直な気持ちで、体験記のタイトルに「聾者は障害者か?」と付けた。奥田さんは、そのときの気持ちをメールにこうつづった。

「私は自分自身を『聴覚障害者』でなく、『聾者』としてのアイデンティティーを持つ、ひとりの人間として誇りに思っています。しかし、現実社会はマジョリティー(社会の多数派)か、マイノリティー(少数派)かで、置かれている立場が大きく変わってくるように思えます」

奥田さんの意見には深くうなずける。聾者だけではない。見えない人、見えにくい人にも盲文化がある。知的機能に障害があるといわれている人はこだわりが強かったり、周囲とのコミュニケーションが苦手だったりすることも、その人独自の特性、さらにはそのタイプの人の文化ともいえる。

そう視点を変えれば、「障害のある人はかわいそう」でなく、別の文化を持つ人として学び合う機会が学校や職場などでもっと必要なのではないか。

周りの「かわいそう」に強い疑問

株式会社ヘラルボニー(本社・岩手県)は前述のような独自の文化を持つ人のイラストや絵画をアート作品として商品化し、社会に紹介している。それはインテリアや生活雑貨、ファッション小物、ウェア、バッグ、車いすカバーだけでなく、バスや自動販売機、JR花巻駅舎のラッピング、ホテルの内装などにも広がる。

設立のきっかけは、双子の松田崇弥社長、文登副社長に自閉症のある4歳上の兄、翔太さんがいたことだった。翔太さんは嫌いと感じる人とは距離をとる。一緒に過ごすことが心の負担になるからだ。安心感を持てる人とだけ、生活をともにする。

兄弟3人はいつも同じように笑い、悲しみ、怒り、涙してきたが、翔太さんに対してだけ、周囲が「かわいそう」と口にした。「どうして、兄はかわいそうなのか」。幼い頃から、2人は強い疑問を抱いていた。

そこで、「障害者に対する上から目線になりがちな社会の意識、『障害者』の言葉にあるとても大きなネガティブなイメージを前向きに変えていきたい」と考え、2018年、2人は起業した。

会社のキャッチコピーは「異彩(いさい)を、放て。」。アーティストの特性を“異彩”(造語)と捉えて、そのパワーを社会に届ける。商品には上質な素材を選び、クリエーティビティーやビジュアルにこだわって仕上げる。商品第1号は「社会とアーティストを結ぶ」という意味を込めて、カラフルなネクタイを販売した(写真)。

商品第1号のネクタイ。「社会とアーティストを結ぶ」という意味を込めた(写真:ヘラルボニー社提供)

ライセンス・ビジネスのモデルを構築し、アーティストに販売価格や収益の一部を分配している。

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