「ビンタ」だけじゃないアカデミー賞"驚きの瞬間" かつてないほど新味と多様性に満ちていた

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「ドライブ・マイ・カー」でアカデミー「国際長編映画賞」を受賞した濱口監督(写真:Ruth Fremson/The New York Times)

「今の見た? マジ? ほんと?」

という瞬間が次々に起きた94回アカデミー賞授賞式(現地時間3月27日)。20年近くアカデミー賞授賞式を見続けてきて、今回は、最も多様性を認めるインクルーシブな授賞結果と展開で、間違いなく最も感動にあふれていた。

その意義を理解するとき、俳優ウィル・スミスがコメディアンのクリス・ロックを舞台で平手打ちしたことなどは、影が薄れてしまう。

「私たちの居場所は確かにある」

「歴史的瞬間」は、次から次へと訪れた。

式をテレビで見ていた人たちがティッシュに最初に手を伸ばしたのは、式が始まって間もない助演女優賞部門。『ウェスト・サイド・ストーリー』でアニタ役を演じたアリアナ・デボーズが受賞。LGBTなどにも属さない性的少数者クィアを公表する有色人種がオスカー像を手にしたのは初めてと打ち明けた。ヒスパニック系でも史上2人目である。

「自分のアイデンティティについて、少しでも、ちょっとでも疑問に思ったことがある人、あるいはグレーゾーンに住んでいることに気がついてしまったすべての人へ。約束します。私たちの居場所は確かにあるのです」と、オスカー像を高く掲げた。

『ウェスト・サイド・ストーリー』でアニタ役を演じたアリアナ・デボーズ(写真:The New York Times)

最後の言葉は、ウェスト・サイド・ストーリーの名曲「Somewhere(どこかに)」から「私たちのための場所はある」という冒頭の歌詞を重ね合わせている。映画では命を落とすトニーと、恋人マリアがいずこかにある将来を夢見て、歌い上げる美しい曲だ。

『コーダ あいのうた』でろう者のトロイ・コッツァーが、助演男優賞を受賞した際も同じだった。ろう者の受賞として2人目、男性ろう者としては初となる。「オスカーを受けるのは……」と舞台から、彼の名前を手話で示したのは、韓国人女優ユン・ヨジョン。韓国系アメリカ人のヒット映画『ミナリ』で昨年、助演女優賞を手にした彼女の手元とその沈黙の瞬間に、会場全体がハッとした。

手話を通じてコッツァーは、こんな話を披露した。

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