パナソニック「幸せの、チカラに。」へ感じる疑問 松下幸之助の「言霊力」こそ経営トップに必要だ
4月1日、パナソニックは持株会社制に移行し、パナソニック ホールディングス(以下、パナソニックHD)が新たに発足した。持ち株会社制への移行と同時に発表されたのが、「幸せの、チカラに。」という企業のパーパス(社会的意義)。
パーパスが制定されたのは、創業者・松下幸之助の創業精神を再び尊重し、それを現代的に解釈して求心力を高めるためだ。
パナソニックに限らず、今や空前の“パーパスブーム”である。耳にタコができた感もある。「うちもパーパスを設定しなくては」――。こう考えている企業経営者は多いのではないか。
ブームの発端となったのは、2021年4月1日にソニーがソニーグループへと社名変更し、パーパスを発表したことにある。このブームが到来するより前にも、経営理念の重要性が叫ばれ始め、これまでそれを明文化していなかった企業までもがホームページに経営理念を掲載。流行りに遅れまいと付け焼き刃で文言を仕立て上げた企業も少なくなかった。
日本企業は流行りの経営用語に経営自体が左右されるきらいがある。これが、横並び現象がいまだに直らない原因の1つになっている。パナソニックHDのパーパス発表も、この潮流に乗った側面がある。
パナHDで氾濫するパーパス
ただ、パナソニックにおいてパーパスを発表したのは、持ち株会社だけではない。4月4日には、パナソニックHDの事業会社の1つ、パナソニック コネクトも記者会見を開き、経営計画とともに「現場から社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスを発表した。2021年9月に旧パナソニックが全株式を総額8000億円超もの巨費を投じて、サプライチェーンソフトウエアを手掛けるブルーヨンダーを買収したが、これを傘下に抱えるのが、パナソニック コネクトだ。
パナソニック コネクトの樋口泰行CEOは、設定したパーパスについてこう説明する。「コネクトのパーパスやコアバリューは、(松下幸之助氏が考案した)経営基本方針(綱領・信条・七精神)をグローバル社員にも(理解してもらうため)、現代風にわかりやすく表現し、ブルーヨンダー社の価値観と我々の事業領域との整合性をとったもの」。
設定したパーパスを宣伝するため、パナソニック コネクトはテレビCMを流し、樋口氏も自ら立て続けにSNSへの投稿をしている。
パナソニックHDなる新組織と、その傘下にある事業会社についてよく知らない人は、パナソニック コネクトの積極的な宣伝活動を見て、同社が多角化企業「パナソニック」であると誤解したかもしれない。スマホしか見ない大学生からは「パナソニックの社長って、樋口さんという人ですよね」といった声すらも聞かれる。
もっとも、HD全体よりもコネクトが目立っているのはパーパスだけではない。4月14日には、樋口氏の自著『パナソニック覚醒』(日経BP)が上梓された。タイトルに「パナソニック コネクト」ではなく「パナソニック」という社名が入り、樋口氏の写真が表紙を飾る。この表紙を見ると、大学生でなくとも樋口氏をパナソニックHD全体のトップ(CEO)だと思うのではないか。
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