パナソニック「幸せの、チカラに。」へ感じる疑問 松下幸之助の「言霊力」こそ経営トップに必要だ

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樋口氏はパナソニックに戻ってくる前まで在籍したマイクロソフト時代も含めて、今回と同様に樋口CEOの写真が大きく表紙に入った自著を数冊出版してきた。今回の出版では、樋口氏自らがSNSで自著のPRをしている。パナソニック コネクトおよび、樋口CEOが日本法人の会長も兼任するブルーヨンダーを活用して、パナソニック全体を覚醒させようする前向きな内容の本なので、社員を鼓舞するための推薦図書、もしくは、BtoBの顧客への名刺代わりにも活用しようとしているのかもしれない。

樋口氏の闘争心は理解できるが、こうした行動による「リスク」をどれほど認識しているのだろうか。「パナソニック」が付された社名のもとで複数のパーパスが披露されると、パナソニックHDが何を志向しているのかわからなくなってしまう。いったい、パナソニックHDにおける広報の統一性はどうなっているのかが問われるところだ。

新生パナソニックHDの構造

この問題を理解するためには、「新生パナソニックHD」の組織を理解する必要がある。イメージしやすくするため、国家に例えて説明してみよう。

2022年4月1日、王室(創業家=松下家)の影響力が事実上無くなり、「パナソニック共和国連邦」が誕生。共和国連邦の大統領と各独立共和国の首相が独自の動きを見せ始めた(昨今の世界情勢を鑑みて、あえて旧ソ連を意識しているわけではない)。

「共和国連邦」とは、王室(創業家=松下家)の影響力がなくなってしまったパナソニックHD。大統領は楠見雄規グループCEOを指している。

各「独立共和国」とは、その傘下に置かれたパナソニック(PC:白物家電や空質空調事業)、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション(PEAC:テレビやデジカメなど)、パナソニック コネクト(PCO :BtoBソリューション事業)、パナソニック エナジー(PEC:車載電池をはじめとしたエネルギー事業)、パナソニック オートモーティブシステムズ(PAS:コックピットシステムをはじめとする車載事業)、パナソニック ハウジングソリューションズ(PHS:住宅設備や建材などを担当する)、パナソニック インダストリー(PID:デバイス事業)などの7事業会社に、パナソニック オペレーショナルエクセレンス(PEX:間接部門担当)を加えた合計8社を意味している。

さらに、これまで主に広報宣伝、福利厚生の一環として社員の結束力の強化とコーポレート・ブランド力向上に関わってきたスポーツも事業化するため、パナソニック スポーツを子会社として設けた。

これらの組織を「独立共和国」、そのトップを「首相」に例えたのは、楠見CEOの次の発言があったからだ。

「事業会社が主役。パナソニックHDでは、(新組織を)持ち株会社制とは呼ばずに事業会社制と呼びます」。その心は、「各事業会社の自主責任経営を徹底し、競争力を強化したい」。

では、「パナソニック共和国連邦」の「国民(社員、OB・OG)」は、この大改革をどう受け止めているのだろうか。1990年以降30年間、売上高、営業利益とも低迷し続け、「国民」は冷めていた。誰が大統領(CEO)になろうとも、大して変わらないだろう。また、経営計画を大々的に発表しても、目標未達を繰り返すだけでは、と。

楠見CEOも「社員の皆さんが『私はパナソニックの社員』と誇りを必ずしも持っていただけていない現状を直視せねばならないと思いました」と社内の淀んだ空気を懸念している。

楠見氏がしたためた「脚本」は、冷めたパナソニックの観客(社員、OB・OG)を久々に感動させた。楠見氏が「秀才」であるという評判は、CEO就任前から社内に定着していたが、感情表現やアドリブが上手な「千両役者」とはいえない。その実直な楠見氏が、である。

筆者は、その文書をあるパナソニックOBから入手した。この文書を提供してくれた人は、とても感動していた。

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