5月大統領選のフィリピンに日米中が近づく理由 「第2次ドゥテルテ政権」見据えて先手争い
「麻薬戦争」で警官らが司法手続きを経ずに多数の容疑者らを殺害する「超法規的殺人」をめぐり、アメリカ政府と議会が以前から「人権侵害」と批判してきたことを腹に据えかねていたドゥテルテ氏の怒りが爆発した形だ。
フィリピンの歴代大統領は対外政策に関して、旧宗主国であるアメリカの意向をつねに気にしてきた。1946年の独立後から冷戦終結までは、アメリカ政府がフィリピンの大統領選挙にも深く関与してきたとされる。ドゥテルテ氏はアメリカ嫌いを公言し、アメリカの意向に真っ向から逆らうことも厭わぬ姿勢を示した初の大統領だった。
その大統領の下、フィリピンの対外政策はアメリカと中国の間で大きく揺れてきた。
中国との蜜月を見せたドゥテルテ大統領
就任直後の2016年7月、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所が、南シナ海ほぼ全域の領有権を主張する中国の九段線に対して「法的根拠はない」との判断を示した。日米の後押しを受けたアキノ前政権が、中国の主張は「国際法に反する」と提訴した結末だったが、ドゥテルテ氏はフィリピン側の勝訴を棚上げすることで中国と接近、多額の援助と紛争海域でのフィリピン漁民の安全の約束を取りつけた。
麻薬戦争を批判したバラク・オバマ米大統領(当時)に悪態をつき、2016年9月に予定されていた米比首脳会談が中止される一方で、いち早く中国を訪問し、習主席との蜜月を演出した。
南シナ海の岩礁を埋め立てて7つの人工島を造成し、不沈空母化させてきた中国に対抗するため、当事者であるフィリピンと足並みをそろえて地域安全保障戦略を進めようとしていた日米は梯子を外された。
アメリカとフィリピンの関係はその後もテロ対策やコロナ対応などで曲折を重ねたが、VFAの破棄宣言にはアメリカ政府も慌てた。この条約がなくなれば、アジアの安全保障環境が激変し、対中戦略も見直しを迫られる恐れがあったからだ。アメリカ政府はコロナワクチンの大量供与などで懐柔を重ね、2021年7月、オースティン国防長官をマニラに派遣して破棄宣言をようやく撤回させて手打ちに持ち込んだ。
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