5月大統領選のフィリピンに日米中が近づく理由 「第2次ドゥテルテ政権」見据えて先手争い

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フィリピンでは政権が交代すると、政権幹部もほぼ入れ替わる。政策も新大統領次第だ。今回来日した両長官は、新政権ではまず交代する。ACSAなど重要な案件は次期政権にゆだねられる。にもかかわらずこの時期に2プラス2を初開催した意味は何か。それは、次期政権へのドゥテルテ氏の影響力を期待してのことだろう。

「第2次」ドゥテルテ政権?

大統領選をめぐる各種情勢調査では、故フェルディナンド・マルコス元大統領の長男ボンボン・マルコス元上院議員がトップを走っている。副大統領候補として同氏とコンビを組むのはドゥテルテ氏の長女サラ氏。こちらも独走状態である。

ドゥテルテ氏自身の支持率も政権末期でなお過去にないほどの高さを維持している。過去の政権ではないほどの高さを維持している。

サラ氏はもともと大統領選に出るのではないかとみられ、情勢調査では他を引き離しての首位だった。大統領候補の座をボンボン氏に譲り、自らはナンバー2に座ることで、事実上の「第2次ドゥテルテ政権」が誕生するとの見方もある。

南部ミンダナオ島のダバオ市長として長く自治体に君臨したドゥテルテ氏は、外交の経験がまったくなかったものの奔放な発言で大国を翻弄し、独自の流儀で国益を追求してきた。中国の約束した援助が額面どおりに届いていないなど実際の成果については不明な点も多いが、「自主外交」を進めたことは間違いない。

その結果として、政権末期になってなお日本やアメリカ、中国からラブコールが寄せられている。ドゥテルテ外交の6年間を象徴するような幕切れである。

多くの国と同様、あるいはそれ以上にフィリピンの選挙で外交や安全保障が争点になることはない。人気投票の色彩が濃く、政策や公約そのものが争点にならないとさえいわれる。ボンボン氏もドゥテルテ政権の路線継承を宣言しているものの、候補者討論会への出席を拒み、外交・安全保障に限らず経済政策なども曖昧模糊としたままだ。

であればこそ、政権交代を待たずに先に唾をつけておこうという発想は日本に限らない。在比中国大使はすでにボンボン氏に接近し、親しげに話し合う写真が公開されている。

 1億を超す人口を抱えるフィリピンは人材の宝庫であり、市場としても魅力的ではあるが、それ以上に南シナ海から東シナ海へかけてのシーレーン上で扇の要の位置にある。台湾からは400キロメートルほどしか離れていない。アメリカと中国の緊張が高まる今、地政学的・安全保障環境上の重要さは増すばかりだ。政権交代後もフィリピンを自陣営に取り込もうとする日米中3カ国の動きは続くであろう。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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