「ミニシアターブーム」当時と現代の決定的な差 3人の関係者が語る若者の小規模館離れの本質

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――第71回ベルリン国際映画祭 審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞し、ミニシアターの「K2」のオープニング作品となった『偶然と想像』や、『ドライブ・マイ・カー』の第94回アカデミー賞国際長編映画賞で話題となった濱口竜介監督も昔から海外志向が強かったように思うのですが。

大高:それはやはり(濱口監督の出身校である)東京藝大自体がもう海外志向というか。いかにカンヌに出すか、みたいな教育を受けてたので(笑)。当時の学生は、真利子(哲也)さんなども含めて、そういう人たちばかりでしたし、やはりヨーロッパの名だたる映画祭への出品を前提とした会話がされていましたからね。もしかしたら、今の東京藝大はまた違うでしょうが、当時はそれしか選択肢がないと思っていましたし、それが当然だと思っていたんで、『カメ止め』のヒットには衝撃を受けましたけどね。

海外での中規模作品の予算は5億円くらい

でも結局、本当に僕が好きなのは、やっぱりその中間のミドルバジェットの映画ですね。それこそ作家性もあるんだけど、ちょっとおしゃれだったりといったフックもあって。先程”誤配”の話もしましたが、『トレインスポッティング』のような映画をきっかけに映画を好きな人が増えていくということもありますからね。

大高健志/おおたか・たけし MOTION GALLERY代表。大学卒業後、外資系コンサルティングファームに入社。その後、東京藝術大学大学院に進学し映画製作を学ぶ中で、2011年にクラウドファンディングプラットフォーム『MOTION GALLERY』設立。以降、50億円を超えるファンディングをサポート。2015年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」受賞 。2020年開催の「さいたま国際芸術祭2020」でキュレーター就任。2022年、下北沢駅南西口直結のミニシアター、シモキタ-エキマエ-シネマ『K2』を開館。 映画プロデューサーとしても『あの日々の話』『僕の好きな女の子』『鈴木さん』『踊ってミタ』などを手がけている (筆者撮影)

僕もああいう”誤配”がうまれそうなラインの映画をやりたいし、クラウドファンディングの映画業界に対しての我々のミッションとしては、一番ビジネス的なリスクが高く成立が難しいが映画に振り向く人が増える可能性が高いミドルバジェット作品を製作しやすくするためにやっているところがあります。

ただ海外で「僕らのゴールとしては、ミドルバジェットの映画を生み出すことなんです」みたいなことを話したら、「予算規模がいくらのことを言ってるんだ」と聞かれたんで「3000万とか4000万ぐらいだ」と言ったら、「うわー」と。海外から見るとそれはものすごく小さいんですね。あっちだと5億円あたりがミドルサイズということらしく、なんか悲しい気分になりましたが。

――『呪術廻戦 0』や『鬼滅の刃』といった大ヒット作に多くの観客が集まる一方で、ミニシアター系の作品は苦戦しているという声も聞こえます。

久保:今の興収はコロナ前の6掛けと言われているんですけど、肌感覚としてもそこは間違っていない。ただ単純に全体が6割になったわけではなくて、入る作品と、入らない作品の差がものすごく広がっている。ある意味、最初から『呪術廻戦』を観たいっていう子たちは、絶対に観に行ってくれるんです。

 これはある興行会社さんが言っていたんですが、若いお客さまの数が減っているという感覚はないんです。実際、アニメ作品は入ってるし、当たっている。だけどミニシアターになると6掛けでもあるし、当たり外れもすごく大きくなっている。これはビジネスとしてすごく不利なんですよね。よりばくちになっているという中で、前に比べて6割という前提なら、すべての予算をミニマムにしていかないといけない。このままでいくと本当にまずいな、という危機感があります。

――その一方で、おうち時間の増加で、動画配信サービスが躍進しています。

久保:劇場にお客さまを取り戻していかないといけないなという思いはあります。とはいえ、コロナ前の状況に完全に戻るというのも難しいんじゃないかと思っていて。やはりSVODは非常に便利だし、何よりも作品のレベルが高いから、満足しちゃうんですよね。そうすると映画館に行く理由というのも少なくなってきてしまう。

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