常見:ただ、このあたりの自由な生き方論と保守回帰は、繰り返しの歴史ですよね。
酒井:今は家庭も仕事も手に入れないとダメという時代ですよね。逆に言えば、両方を手に入れることが可能な時代だとも言えます。当時は「ニュートラは家庭・リセは仕事」という雰囲気がありましたが。
常見:恋愛に関してはある意味、そこから降りることが許される時代だとも言えます。非モテの肯定かもしれません。恋愛よりも仲間という世界観になっているともとらえらます。
西森:仮に、当時『オリーブ』が両方を肯定していたらどうだったと思います?
酒井:一応、恋愛特集も組んではいました。ただ、恋愛特集でも『JJ』など赤文字系の恋愛観とは違い、結婚という目標を立てることはなく、真剣味も薄かった。仕事に関しては、クリエイティブな仕事至上主義という感じでした。
西森: 今は、あんまり「女性性」を押し付けると男性は責任感から逃げ腰になるということもありますよね。だから、『JJ』などのファッションも昔よりもカジュアルになっているし仕事についてのページも比重が高くなっている感じがあります。
酒井:今は男性にとっても女性にとっても、仕事と結婚は、どちらを選ばなくてはならないものではありませんよね。
常見:基本、同意です。ただ、今の安倍政権の「女性活用」なる政策は、穿った見方をするならば、女性に「仕事も出産・育児も全部やれ!」と言っているようにも聞こえます。
酒井:家事弱者の男性はまだ多いですからね。
西森:全部持っている人、維持している人の息切れ感、必死感ってありませんか?何かが欠けている人の方が愛せるように思います。
酒井:欠如している人は安心して話せますよね。すべてを目指す気持ちが不自然だとは思わないのが、今の状況ですよね。
「負け犬」は自称であるから意味がある
西森:何年かに一度、女性のエッセイが出ると社会現象になりますよね。
常見:酒井順子さんといえば、新語・流行語大賞にもランクインした「負け犬」という言葉の生みの親です。『負け犬の遠吠え』はベストセラーになりました。
西森:負け犬から10年たって、「負け犬」の裾野が広がっていると感じます。2000年代は仕事への意思があったからこそ、お金も自分で稼げるし、楽しみも見つけられるということで自ずと「負け犬」になっていたという流れがあったけれど、今は仕事をすることに対してさほど意思がなくて、ぼんやりと結婚はしたいなーと思っている人の中にも負け犬になっている人は増えたように思います。
酒井:はっきりした意思がないと就職も結婚もできないのが、今の時代ではないでしょうか?
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