それはアジア新興国市場が急拡大しているからだ。これはさまざまな指標で見ることができる。たとえば、中国での10年の自動車の生産台数、販売台数は、ともに1800万台を突破し2年連続で世界首位となった。
こうしたことを背景として、「これからは新興国市場だ」との意見が多い。新卒採用1390人のうち1100人を「グローバル採用」としたパナソニックも、そうした戦略だ。同社の大坪文雄社長は、「売り上げのうち海外の比率を現在の48%から、3年後には55%に引き上げる」としている(注1)。
しかし私は、新興国に最終消費財の市場を求めようとする方向には懐疑的だ。その方向のビジネスモデルが成功するとは思えない。「今後成長する市場が新興国である」のは間違いないが、それは、「日本企業がそこに参入するのがよい」ことを意味しない。「新興国市場が拡大する」ことと、「日本企業がそこで高収益を上げられること」とは、まったく別の問題なのである。
アジア消費者市場への参入が日本企業の救世主にならないと考える第一の理由は、他の先進国や新興国のメーカーがすでに参入しており、激しい競争が展開されているからだ。
さらに大きな理由は、新興国で求められるのは、高品質の製品というよりは低価格の製品であることだ。
ところが日本の製造業は、低価格製品の生産において比較優位を持っていない。「国内市場や先進国市場がダメになったから新興国」という発想には、比較優位の視点が欠落している。このことは半導体に関してすでに述べた(1990年代以降、PC用の低価格DRAMの需要が増えたにもかかわらず、日本の半導体メーカーはメインフレーム用の高性能DRAMを作り続け、サムスンの成長を許した)。