「彼女が勤務している地域の学校はかなり荒れている。以前は中流家庭が多い住宅地の学校にいたので、ギャップはかなり激しいと思います。学校祭で発表する合唱の仕上がりが悪いことが原因で、各クラスの担任と対立してしまい、まじめな彼女は不安定になってしまったのです」
といっても、職場に行けなくなるほどの深刻さではない。音楽祭もなんとか乗り切ることができた。しかし、担任教師たちとの不和は続いている。一部の荒れた生徒にもなめられてしまい、授業が成り立たなくなることも少なくない。彼女は毎晩のように西田さんに愚痴をこぼし、家事をする余裕を失った。
「洗い物、洗濯、掃除、ゴミ出しはすべて僕がやっています。でも、料理は自分のではなく誰かの手料理を食べたい。彼女は『私も苦手だけど、一緒に住んだら頑張る』と言ってくれていたのですが、最近はスーパーの惣菜ばかり。このままでは僕が全部の家事をやることになりそうです」
彼女を愛しているのか?
西田さんは、この春にほかの学校に異動させてもらうことを校長に頼むように彼女を説得した。西田さんと彼女が働く自治体では6年間は同じ小学校で勤務するのが慣例であるため、「満期前」の異動は何らかの理由で現場から逃げることを意味する。彼女は異動を嫌がったが、西田さんとしてもこれ以上は我慢できないという。
他人事なので理想論をぶつけさせてもらおう。精神的の不安定さを理由に結婚できないのは、彼女をあまり愛していない証拠ではないのか。本当に好きならば、仕事や家事のことは脇に置いて、「とにかく一緒になろう。君のことは僕が守る」と宣言できるはずだ。
「いえ。彼女のことは間違いなく好きです。でも、若い頃とは違って好きだからイコール結婚だとは思えなくなりました。結婚相手に求めるものが高くなったのかもしれませんね……。といって、彼女と別れてほかにもっといい女性と巡り合う自信はまったくありません。今はとにかく彼女に早く落ち着いてほしいです」
実を言えば、僕も西田さんのことを批判する資格がない。自分は精神的にも経済的にも脆弱であると離婚したときにはっきり感じたので、再婚相手には自立心旺盛なタイプを自然と選んだ。
お互いに心身と生活の安定をできるだけ自己責任で保たなければ、夫婦の絆すら危うくなりかねないと今でも思っている。いちばん大切なのは家族だからこそ、優先すべきなのは自らの健康と仕事なのだ。気持ちが不安定な人とは結婚できないという西田さんの判断にも共感はできる。
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