その人らしさ重視の介護を 聖マリアンナ医科大学名誉教授・長谷川和夫氏②

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はせがわ・かずお 認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授。1929年愛知県生まれ。53年東京慈恵会医科大学卒業、69年同大学助教授。73年聖マリアンナ医科大学教授、同学長、同理事長などを歴任。近著に『認知症ケアの心』。

認知症ケアで重要になるのは、その人(認知症患者)を中心にしてあげること。トム・キットウッド(英国の心理学者)が提唱した「パーソン・センタード・ケア」の考え方です。介護する側が「私に任せて」と、本人の意思を無視したパターナリズム(父権主義)の姿勢では困る。介護者個別の考えだけでその場その場に対応してしまうと、いいかげんに流れてしまう危険があると思うんです。そうではなく、認知症ケアには、理念が必要です。

キットウッドの著書『Dementia Reconsidered』の副題には、「the person comes first」という言葉があります。人間が最初に来る。つまり患者自身の考えや視点が大事ということ。彼は「パーソンフッド=その人らしさ」という概念を提唱しています。

その人の暮らしを支えることが大事

たとえば入浴時間にお風呂を勧めても、本人が今日は入りたくないというとき。それを認知症の人はパッと伝えられない。そうすると介護者は、こちらに来て早く脱ぎましょうと了解なしにやり始める。すると本人は、急に着物を脱がされると解釈して当惑し出すのです。「入ってもらわないと、早く帰宅できないから」と、ケアをする側の都合優先で進めてしまうのはよくない。

その一方でケアが難しいのは、認知症の人の言いなりになるのではダメだということ。もう死にたいから殺してとか、あるいはセックスを強要するとか……。そういうことは私はできないのよとキッパリ断ることが必要。言いなりになるのではなく、認知症の人の求めているものは何かということを理解すること。それが「パーソン・センタード・ケア」の考え方です。ケアとは認知症の症状を改善させるという結果を目的にしてはいけない。本質的にはその人の暮らしを支えることが大事です。

認知症の人中心のケアが介護現場で実行されるためのツールとして、認知症介護研究・研修センターを中心に「センター方式」というマネジメントシートを開発しました。たとえば在宅ケアのデイサービスから、病院あるいは特別養護老人ホームに移ることがあるが、その際に在宅ケアにかかわったケア専門職や家族が、認知症本人の生活史、固有の要望や課題をシートに記載することで、情報が共有されるわけです。

中でも特徴の一つが、似顔絵を描いて、それに気持ちのこもった吹き出しを書き入れるシート。マヒがあるとか、松葉杖をついているとか、車いすだとか、その人の毎日の生活の状態が一目でわかることで、その人らしさを反映できるのです。

週刊東洋経済編集部
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