認知症を診断する場合、昨日の診断内容と今日のそれとが、ぶれてしまってはいけない。つねに一定の診断を可能にする「ものさし」が必要。そこで、目に見えない人間の認知機能を数値化し、目に見えるようにしたのが「長谷川式認知症スケール」(以下、スケール)です。
これは、そもそも恩師の新福尚武先生から勧められ、自分の判断基準とするために1974年に作ったのが最初ですが、むしろ専門医以外の内科医から喜ばれた。これなら精神科医でなくとも、認知症の診断ができるようになったからです。
スケールは30点満点。20点以下なら認知症と判断します。19点なら症状として軽いし、3点程度ならそうとう進んでいることになる。ただ家路に迷ってしまうほどの認知症の人でも、高学歴の人の中には満点を取る人もいるので、このスケールだけで認知症を診断するのは危険。診断する際の最初の目安であり、今も改訂版スケールが使われています。
ケアとはプロセスを重視すること
スケールが広まり出した頃、勤務先の聖マリアンナ医科大学精神科には、認知症の患者が多く来診し始めた。そこで外来の延長線上にデイケアを作ろうと考え、毎週1回の割合で「水曜会」を開きました。
デイケアの目的とは、認知症の人の周りに、人と人のつながり、関連性を作ってあげることです。認知症の人は、認知機能は衰えているが、感情の動きはある。デイケアでは、認知機能以外の心の働きを刺激して活発にさせることができる。私流に表現すると、人と人のつながりに注射をする、ということです。
第2の目的は、どんな相談も受け付けるため、ご家族を全面的に支援できること。一般病院では煙たがられていた認知症患者に対し、いつでも開放している病院ができたということは、相当な反響でした。
加えてデイケアでは、認知症の人を抱えたご家族同士が交流し、情報交換して支え合うことができる。ほかの認知症患者を見ることで、自分の認知症家族を、心理的に距離を置いて見られるようになる。家族に少しゆとりを与えることができた。
今までは、家族が認知症になり不名誉な気がして悩んでいた人も、デイケアに来れば自分の困ったことをオープンに話せるので、家族同士に仲間意識も芽生えてくるのです。
治るか治らないかの結果を重んじる医療と違い、ケアとはプロセスを重視すること。認知症にかかり、過去の絆も未来の絆も失った人たちの周りに、新しい絆を作ってあげられるのが、ケアのすばらしい点です。
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