(第43回)IBMはいかにして危機を克服したか

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強固に確立されていたIBM独自の企業文化

ガースナーは言う。「皆とびきり優秀で熱心で、取るべき方針に対して確信を持っているのだが、戦略を議論しているのに、本当の意味での戦略的裏付けがないに等しい」(ルイス・ガースナー著『巨象も踊る』69ページ)

93年にRJRナビスコの会長からIBMのCEOにヘッドハントされたガースナーは、IBMの歴史で初めての「外部」の経営者だ。コンピュータの専門的な知識は持ち合わせていない。そうした人が世界最強の専門家集団と対決し、彼らの既得権益を突き崩して組織を基本から変革しようというのだから、その困難さは想像に余りある。『巨象も踊る』にはその様子が詳細に描かれている。ガースナーはまずIBMの特異な企業文化に驚かされた。

全員が「ダークスーツに白いシャツ」という外見上の特徴もあるが、より重要なのは、何が正しく何が正しくないかに関する共通の了解だ。それは必ずしも明文化されたルールではないが、強固に確立されており、全員がそれに従っている。

たとえば各部門は独立しており、拒否権を発動できる。外部との競争よりも内部の他部局との競争のほうが、重要と見なされる。会議ではIBMでしか通用しない言葉が飛び交う……などなど。要するにIBMの社員は自分が属する部局の社内での位置付けにしか関心がなく、顧客や市場のことを考慮していなかった。つまり極端に内向きの組織になっていたのだ。システム360の大成功によって、外部を見る必要がなくなってしまったからだ。

ガースナーは、「企業文化は経営の一側面などではなく、経営そのものだ」と考え、この改革が最重要事と考える。

この当時のIBMの状況は、どれを取っても、現在の日本の大企業とそっくりだ。ある時点で成功した巨大組織はその時点で硬化してしまい、問題があるとわかっても身動きが取れなくなってしまうのである。

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