「必要悪」で働いている自覚を 宗教思想家・ひろ さちや氏②

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ひろ・さちや 宗教思想家。1936年大阪府生まれ。東京大学文学部印度哲学科卒業、同大学院博士課程修了。気象大学校教授を経て、現在、大正大学客員教授。仏教を中心に、宗教や生き方をわかりやすく説く。『奴隷の時間 自由な時間』『「ずぼら」人生論』など、著書多数。

経済の基本原理は「ご都合主義」である、ということを忘れてはいけません。

宗教では、人間は弱い存在であり、脅迫されれば唯々諾々と従ってしまうし、完全な人間なんて一人もいない、ということが基本原理となっています。仏教もキリスト教もイスラム教も同じです。その上に立って物事を理解しようとします。

イスラム教徒は遅刻をしたとき、「インシャーラー(神の御心のままに)」と言って悪びれることがありません。ところが日本では遅刻はいけないことだと決めています。社長と社員が待ち合わせをして社員が遅れると、こっぴどくしかられます。しかし、社長が遅れたときは「商談があってどうしても外せなかった」と開き直ることが多いものです。こういうのをご都合主義というのです。

日本のビジネスパーソンは、会社のために必要だから父親が病気でも見舞いに行かなくていい、家庭を壊してもいい、とご都合主義で律します。会社の誰かにとって必要なだけなのに、それを後生大事に自分にとっても必要だと言い聞かせます。これが不幸を生むのです。

競争をしすぎて仲間や家族を崩壊させないこと

私は「必要悪」、つまり「悪」なのだけれども「必要」だからやっている、ということをもっと自覚しなければいけないと思っています。ある会社に二人の人間がいて、どちらか一人しか昇進させることができないとします。社長は昇進できなかった人に対して「すまんな」と一言いたわりの言葉をかけるべきです。ところが「おまえの能力が低かったから当然じゃないか」という態度をとるのは、競争原理に毒されています。仲間である人間と人間が競争をすることは「悪」の最たるものです。資本主義社会に競争は必要でしょうが、それは「必要悪」でやっているという認識を欠いてはいけません。

今のビジネスパーソンにとって大事なことは、競争をしすぎて仲間や家族を崩壊させないこと。彼らへの後ろめたさを持って、会社勤めをしてほしいと思います。その意識があれば、少しずつ会社離れができるでしょう。会社もそれを望んでいます。終身雇用はできないので「社員よ、自立してくれ」と叫び声を発しています。しかし、多くのビジネスパーソンは、会社にしがみつこうとしています。まるで幕末に、藩にしがみつこうとしている藩士たちのようです。そうした藩士は明治維新によって無惨な目に遭いました。今、会社のために粉骨砕身している人は、幕末の藩士と同じ運命をたどるのではないでしょうか。

週刊東洋経済編集部
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