優等生で居続けたいと無理重ねるのがしんどい訳 水木しげるが作中に遺した「エリート病」への皮肉
妖怪マンガで有名な水木しげるさん。ただ、それは水木作品のほんの一側面にしかすぎません。水木マンガの真髄は、本質をえぐる鋭い人間観察と、時には非情なほどシビアなリアリズムにあります。
大人になったからこそわかる、刺さるセリフ。小学4年生以来、半世紀にわたって水木マンガを愛読する作家で医師の久坂部羊氏が、マンガ的なおかしみに包まれつつも、マンガの枠を超えて哲学的な域にさえ達している水木マンガの珠玉のセリフを厳選しまとめた『冴えてる一言 水木しげるマンガの深淵をのぞくと「生きること」がラクになる』より、人間の真理を看破した「一言」をご紹介します。
「優等生になったのが悪かったのねえ」
「一番病、あるいはエリート病、あるいは征服病といってもいいかもしれません」
この一言を発したのは、『水木しげる漫画大全集』第70巻、「水木氏のメルヘン」の表紙にも取り上げられている名作、『一番病』の主人公・幸吉である。
幸吉の師匠である「江戸一番のカンオケ屋」・徳兵ヱは、嫉妬心と競争心が異様に強く、寺社奉行から「カンオケ賞」の審査員を依頼されたことで、自分が日本で一番のカンオケ職人だと、自負の笑い声をあげる。
幸吉が、「先生がいい年をして、ああして何でも一番になることを好まれるのはいつ頃からなんですか」と聞くと、馬面の奥方がこう答える。
「なんでも寺子屋で先生にほめられたのが病みつきになって、くそ勉強したらしいのよ。そうしたらなんかの間違いで優等生になったのが悪かったのねえ。それからなんでも優等生でないと気がすまなくなったらしいのよ」
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