すでに20年近く前のことになるが、大学時代の同級生と日本の半導体産業について話したことがある(私は工学部応用物理学科の卒業で、同級生の多くが半導体産業で活躍した)。
その当時、彼らは日本の半導体産業が強いのは当然で、その理由を日本の大学では工学部が強いためにエンジニアの質が優秀なことだと言っていた。国際学会をリードしていた彼らの発言は、説得力があった。
そして、これは納得のいく説明だ。なぜなら大学に工学部があるのは、遅れて産業化に着手した日本の特殊事情であるからだ。ヨーロッパの大学には工学部はなかった。アメリカでも、東部の伝統的な大学ではそうだった。これらの国では、日本の大学工学部に相当する教育は、「技術高等学校」で行われていた。
アインシュタインの卒業校は日本では「チューリッヒ工科大学」と訳されているが、正式な名称はTechnische Hochschuleである。日本で「マサチュセッツ工科大学」と呼ばれている学校は、Institute of Technologyである。どちらも現在では大学レベルの教育機関だが、もとは大学(Universitat)よりは格下の教育機関とみなされていた。
しかも、日本では高度成長期に工学部の大拡張が行われ、多くの優秀な人材を集めた。半導体産業はしばしば「科学産業」と言われるが、機械工業のように職工的経験や勘がものをいう分野でなく、物理学の最先端の知識が必要とされる分野だ。工学を大学で教えている日本が強かったのは当然である。
もちろんアメリカやイギリスは、半導体に関しても基礎分野では強かった。実際、半導体を発明したのはAT&Tのベル研究所の所員である。ところが製造工程になると日本のような強さを発揮できないのだ。