『Made in America』というタイトルの書籍が、1989年にアメリカで刊行された(MIT産業生産性調査委員会、依田直也訳、『Made in America アメリカ再生のための米日欧産業比較』、草思社)。これはアメリカの製造業の再生を願って書かれた本である。
この当時、アメリカの製造業は、雇用者数で非農業部門の約16%を占めており、アメリカ経済全体の中で重要な役割を担う産業であった。それが日本からの輸入の洪水によって衰退しつつあることへの強い危機感が、本書の背景にある。
本書の主張は明確だ(第2章)。「製造業からサービス産業への転換は、国民経済の発展の過程として避けることのできない道であり、同時に望ましい過程であるという見方が行なわれている」。しかし、「われわれは、この考え方は間違いであると考える。アメリカのように巨大な大陸型経済は、将来とも、サービスの生産者として機能してゆくことは不可能であろう」。
そして、「アメリカは、世界の市場において、引続き製造業の分野で競争していく以外に選択の余地はない」と結論している。その理由は、「商品の輸入のためにサービスを輸出しなければならないという姿は現実的ではないということである」。
「サービス化はありえない」という主張も、そして、その理由として挙げられていることも、現在日本で言われている「モノづくりこそ日本の生きる道」という主張とほとんど同じだ。
脱工業化して繁栄を実現した米国
しかし、現実は、本書の結論とはまったく逆の方向に進んだ。これは、本連載でこれまで数字を挙げて説明してきたとおりである。改めて示せば、図のとおりだ。アメリカは、脱工業化を果たし、生産性の高いサービス産業を成長させた。そして、それゆえに、史上空前の繁栄を実現したのだ。