また、サービス貿易の黒字が、財貿易の赤字を補う形になった。経常収支が赤字を続けているのは事実だが、それは資本収支の黒字で埋めあわされてきた(もっとも、そのことが金融危機を引き起こしたことも事実である)。
本書は随所で日本企業を称賛している。特に、アメリカ企業が短期的利益を重視しがちであるのに対し、日本企業が長期的視点に立った経営を行っていることを評価している。その結果、産業部門の資本投資比率や研究開発投資比率が高くなっており、日本の民生電子機器メーカーは、「すさまじい競争力を持つにいたった」と指摘する(第4章)。
また、アメリカでは、企業内の個人とグループの相互関係、企業と供給業者の関係などにおいて「協調」が欠けていることを指摘し、日本のジャスト・イン・タイム生産システムの効率性を称賛している(第7章)。
興味深いのは、本書は、アメリカの教育システムに問題が多いとしていることだ(第6章)。まず、初等・中等教育に問題があると指摘する。さらに、仕事に必要な特殊技能の大半を正規の教育機関で教えるアメリカ型のシステムと、日本やドイツのようにオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)が重視される国を比較し、後者のほうが優れているとしている。
それから20年が経ち、日本のエレクトロニクスメーカーは、韓国や台湾のメーカーにはるかに水をあけられて青息吐息だ。日本の製造業は、経済危機によって大きな打撃を受け、いまだに経済危機前の水準を回復していない。日本企業の経営が当時と変わっていないことを考えれば、本書の分析は誤っていたと考えざるをえない。それにもかかわらず、日本の企業経営者は、この時に受けた絶賛の酔いからまだ醒めていないようだ。そして、「アメリカの企業は短期利益しか追求しない」と言い続けている。
80年代に日本の製造業が競争力をもった基本的な原因は、アメリカに比べれば依然として低賃金であったこと、そして日本より低賃金の新興国はまだ日本の競争者として立ち現れていなかったことだったのだ。