小林浩美流「五輪書」

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プロゴルファー/小林浩美

 秋の夜長は読書。私は小説を除くと、本は最初から読まず、途中の興味があるところから読んでいく。また気に入った作家のものは、飽きるまで十冊以上読み続ける。最近手に取った本に宮本武蔵の『五輪書』の抜粋が載っていた。
「兵法の道において、心の持ちやうは、常の心に替る事なかれ。常にも、兵法の時にも、少しもかはらずして、心を広く直にして、きつくひつぱらず、少しもたるまず、心のかたよらぬように(略)心を静かにゆるがせて、其ゆるぎのせつなも、ゆるぎやまぬやうに、能々吟味すべし」

これをゴルフに置き換えてみた。たとえばゴルフでの優勝争いは緊張する。その緊張の中、どうやってよいプレーをするかが大事になる。それを可能にするのはつねに同じルーティンを取ることだ。トッププロなら大概が実行している。ここ一番というガチガチ緊張する場面でも、一連の動作を普段練習しているときと同じように繰り返すことで、余計な緊張を持ち込まず、無駄な考えも遮断できるのだ。だから心が偏らない。

「心を静かにゆるがせて」というところは、心が固まらず、さりとて振幅の幅が振れ過ぎず、静かに流れている状態をいうのだろう。緊張がずっと続いているときでも、心を一定の幅でコントロールできているときは、周りの状況がきちっと把握でき、なおかつ自分のプレーもいいものが出せている。しかし、一瞬でも心が大きく揺らいだり、止まったりすると動揺し始め、集中力も散漫になる。だから、揺るぎやまないようにすることが大事だと言っているのだと思う。これはスイングを始める前のアドレスにも言える。ひざやひじ、手首、足首などの関節を少し曲げておくことでスイングの動きがスムーズになるとともに、スイング中に違う動きになったとしても一瞬で対応できる。関節が伸びきったアドレスや体の振幅の大きい動きでは、いいスイングがしづらい。車のハンドルの遊びのような少しの余裕が、スイングでは関節の少しの曲げ方に当たる。

また、「兵法勝負の道にかぎって、人に我身をまはされて後につく事悪し」と、先手必勝の技・精神のあり方を重視しているらしい。さまざまな状況で、いろんな技術と柔軟な考え方でもって戦えれば最強だ。厳しく我慢を強いられるメジャーのコースでは、持てる技術を駆使し、辛抱強く粘り強くスコアを作っていく。またバーディ合戦となるコースでは、ピンに寄せるショットを連発して、パットをどんどん決め、相手に畳みかけるような強さを発揮すればいい。トラブルショットのときには、セオリーに縛られず柔軟な考え方で対処する。技でも考え方でもつねに後塵を拝さず1歩でも2歩でもリードしていればすごいことになる。よく勝っていた頃のタイガー・ウッズがそうだった。もし、宮本武蔵がプロゴルファーだったら、どんなゴルフをしたのだろう?

プロゴルファー/小林浩美(こばやし・ひろみ)
1963年福島県生まれ。89年にプロ初優勝と年間6勝を挙げ、90年から米ツアーに参戦、4勝を挙げる。欧州ツアー1勝を含め通算15勝。現在、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)理事。TV解説やコースセッティングなど、幅広く活躍中。所属/日立グループ。
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