今年の「ノーベル経済学賞」を解説する:上 ジャン・ティロール教授の理論はどこがすごいのか?
スウェーデン王立科学アカデミーおよびスウェーデン国立銀行(リクスバンク)は2014年度ノーベル経済学賞をフランスのトゥールーズ第1大学(トゥールーズ・スクール・オブ・エコノミックス)のジャン・ティロール教授に授与すると発表した。
ティロール教授の研究範囲は広く、産業組織論、規制政策、組織論、ゲーム理論、ファイナンス、マクロ経済学、経済と心理学などの分野でそれぞれ第一級の研究を行ってきた。自然科学の分野であれば、専攻が細かく限定され、それぞれの専門分野の中で、しのぎを削っているというのが現実だと思う。経済学はそこまでは専門化、細分化はされていないものの、ティロール教授の研究範囲の広さは、現役の経済学者の中でも突出している。
また、その研究の質の高さも広く認められているところである。具体的には、ティロール教授の専門論文は200本を超えており、トップ10に入る一流経済学術誌への掲載を点数化したランキングでは、ティロール教授が長らくトップに位置していた。著作も多数あり、主要なものだけで10冊を数える。それぞれの著作は、百科全書の国だけあって、百科事典のように綿密かつ広範囲にわたっており、多くの研究者にとっては、第一に参照すべき基本文献となっている。
幅広い研究を支えるネットワーク
このような広範な研究が可能になっているのは、ティロール教授を取り巻く広範な研究ネットワークのおかげである。現代のような複雑化した社会の中では、銀行業や電気通信(テレコム)産業の具体的な現状、あるいは精緻化された特定の理論分野を理解することは極めて難しく、また時間のかかることである。
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