「反日一辺倒」を変え始めた韓国メディアの葛藤 慰安婦支援団体のスキャンダルで“聖域"が崩れた

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2018年当時、慰安婦問題について記者会見する韓国市民団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」の尹美香(ユン・ミヒャン)理事長(当時)。後に国会議員になったが、1人の慰安婦の告発により正義連のずさんな金銭管理が明るみになった(写真・時事)
日韓関係における懸案中の懸案、慰安婦問題で大きな力を持ち、韓国政府やメディアさえも逆らえなかった市民団体「正義連」(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)。その中心人物・尹美香(ユン・ミヒャン)氏が団体の不正な資金管理などを行っていたことが発覚した事件を契機に、日韓間の懸案に対する報道を韓国メディアが変えつつある。スキャンダルで噴出した問題、日韓メディアの役割とは。『慰安婦運動、聖域から広場へ』を書いた韓国のジャーナリスト、沈揆先(シム・ギュソン)氏に聞いた。

 

「陣営論理」の枠をメディアが超えた事件

──尹美香事件は、彼女と肩を並べて運動してきた1人の元慰安婦・李容洙(イ・ヨンス)さんという当事者による、団体の金銭管理に疑問を呈する告発から始まりました。

この事件が韓国を強く揺るがしたのは、何よりも李さんという運動団体の核心人物が尹氏を手厳しく告発したからだ。そして、透明性を持って運営していると国民が信じていた慰安婦団体への失望が広がり、さらには、尹氏という慰安婦支援運動で国会議員にまでなった人物の事件だったためです。

──慰安婦問題で韓国メディアは、支援団体の論理や主張がすべて正しいといった報道をしてきた印象が日本ではあります。

韓国国内は大きく保守と進歩(革新)に分かれています。両者とも違いを認め、共存を志向するはずですが、最近は相手方を認めようとしません。

さらに「陣営論理」というものがあります。双方とも、自陣営の人が過ちを犯してもそれを過ちと認めず、逆に相手陣営のわずかな過ちでも大きな過ちだと考えがちですが、今回は違った。

尹氏は与党「共に民主党」から出馬した国会議員で、事件後に党を除名されましたが、文在寅(ムン・ジェイン)政権がアピールしてきた「被害者中心主義」を強く主張してきた人です。

「陣営論理」からすれば、彼女に近い進歩系のメディア、例えば「ハンギョレ」「京郷(キョンヒャン)新聞」といった大手紙は尹氏や政権を擁護したり、その弁明を代弁したりするような報道になるはずですが、今回の事件では尹氏や団体に対して中身のある批判報道を繰り広げました。これは特筆すべきことなのです。

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