ソニーがEV初参入へ見せた大胆な「らしさ」の凄み “中の人"が語る「なるほど」な独自性の生み出し方

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例えばソニーモバイルコミュニケーションズ(現ソニー)の場合、まずは、トップをはじめとするマネジメント層と、目指すべき方向についてディスカッションしながら「言葉」を探していく。ワークショップ形式で、思考を言語化して収斂していくプロセスを、クリエイティブセンターが導き出すかたちで進めていった。とともに、その言葉を象徴的に表現するビジュアル化を行ったという。

成果を見せてもらった。「好きを極めたい人々に 想像を超えたエクスペリエンスを」というメッセージのもと、ソニーモバイルのコーポレートビジョンが綴られている。(現在はXperiaのビジョンとなっている)。

クリエイティブセンターが生み出したビジョン(画像:ソニー提供)

「人の数だけ、好きはある。人の数だけ、愛するものがある」という文面は、表層的に整えられた言葉の羅列でもなければ、カタカナ用語が羅列された抽象的なものでもない。少しロマンティックな空気をはらみながら、読む人の心に伝わってくる。背景にある星がまたたく宇宙のビジュアルと相まって、明快でわかりやすく、読む人の心に伝わってくる力がある。

ソニーがソニーたるゆえんとは?

発表したところ、社内外の反応が良かった。「ソニーモバイルの中で、万人に向けた普及品というより、一部であっても好きな人が選んでくれる尖ったものを出していこうという意図が、モノ作りをはじめ、社内の風土として根づいていっているのが嬉しいです」と石井さん。

今は、ソニーファイナンスのブランディングを一緒にやっているというが、これから、ソニーの業容が広がっていく中、ブランディングにまつわる仕事は重要度を増していくという。

石井さんの話を聞いていて、ソニーがソニーたるゆえんは、ほかにはない独自性を究めること、ものごとの本質を掘り下げることなど、一見するときれいごとで終わってしまう事柄について、泥臭いと言えるほど真面目に取り組み、デザインを通してカタチ化する。つまり世の中に伝え広めていくことを続けてきた――その積み重ねの成果と感じた。

しかも、1つのところにとどまることなく、前へ前へと進み続ける。時代の先端を切り拓こうと挑み続ける。その姿勢を堅持しているところが「らしさ」につながっている。若い石井さんが、これからのクリエイティブセンターをどう率いていくのか、ソニーの「らしさ」の行方が楽しみだ。

川島 蓉子 ジャーナリスト

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かわしま ようこ / Yoko Kawashima

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了後、伊藤忠ファッションシステム入社。同社取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年退社。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』『アパレルに未来はある』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)など。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

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