一般家庭もそうだが企業も金がなければ極端な話、破綻してしまう。そんな企業の財務健全性を示すのがネットキャッシュだ。現預金と短期保有の有価証券の合計額から、有利子負債と前受金を差し引いて算出する。企業の実質的な手元資金であり、これが多いほど財務的な安全性が高い。
東洋経済オンラインは約3700社以上の上場企業のネットキャッシュを割り出し、上位500社をランキングにした。例年同時期に同じ内容のランキングを公表しており、その最新版となる。
ソニーグループのネットキャッシュは2兆5965億円
最新ランキングの1位はソニーグループ。ネットキャッシュの額は2兆5965億円だった。直近の2021年4~9月期連結決算は、売上高が4兆6262億円、本業の儲けを示す営業利益が5985億円と、中間決算として過去最高を記録した。2021年3月期については、10月28日に業績見通しを上方修正。音楽と映画関連の業績が想定より上振れ、前回の見通しから売上高から2000億円、営業利益を600億円引き上げた。
ソニーグループは台湾積体電路製造(TSMC)と共同で熊本県内に半導体の新工場を建設する。世界的な半導体不足が続く中、こうした戦略的投資を進めるうえで日本企業トップのネットキャッシュは大きな強みとなりそうだ。
2位は任天堂の1兆7423億円(前年1兆2167億円億円)。巣ごもり需要を追い風にニンテンドースイッチのソフト「あつまれ どうぶつの森」が大ヒットし、 2021年3月期は最終利益が前年比85%増の4803億円で過去最高となった。
3位は信越化学工業の1兆1251億円(前年1兆0644億円)で、2021年3月期の営業利益は3922億円で前年比3.2%減だった。同社のIR資料には「感染の揺れ戻し、供給の乱れ、労働力不足、インフレーションの進行などが、前提の見直しを余儀なくする事態もありえます。そのようなさまざまなリスク要因がある中で当社グループはすべての事業を伸ばすための取り組みを推し進めます。開発投資も緩めず、早期に実現させます」とあり、潤沢なキャッシュを元手に一段と競争力を高めていく構えだ。
以降もトップ10圏内には、4位のキーエンス、6位のファーストリテイリング、8位のファナックと、日本を代表する有力企業が並ぶ。
覚えている人も少なくないかもしれないが、2008年秋のリーマンショック時に頻発したのが「黒字倒産」だ。決算上の業績は黒字なのに資金繰りが急速に悪くなった企業が何社も倒産した。逆にいえば、本業がいくら赤字であってもキャッシュが回り続けていれば、企業が潰れることはないということ。手元資金を厚くしておくことは、企業経営者や財務・経理担当者にとって安心できることでもある。
一方で、ネットキャッシュが積み上がっていることだけを単純に喜べない。成長のための投資や株主への還元という意味で、手元資金を持て余しているという見方もあるからだ。財務が健全だから、すべてが順調とも限らない。それでは、今年のランキングを見ていこう。