このクルマは、周囲にぐるりとセンサーが入っていて、車外環境を360度チェックするのが独自性の1つ。「OVAL=人を包む」というコンセプトのもと、「センシングで人を守るモビリティという考えを体現することができました」と石井さん。強いブランディングが行えると意見が一致した。
「ソニーグループのPurpose(存在意義)である『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』には、“感動”という言葉が出てくるのですが、「VISION-S」のブランディングは、まさに”心の琴線に触れる”ものになるのではないかという確信みたいなものを抱きました」(石井さん)。
その域に達することができたのは、ブランド、外観から内装、UI/UXも含め、専門領域を持ったデザイナーが1つのチームとなり、連携しながら作り上げていった成果だ。クリエイティブセンターの強みを改めて確認できたという。
事業分野を横断する「クリエイティブハブ」に
大半の企業は、事業領域が広がるにつれ、部門ごとの縦割り組織が増えていく。仕事の合理効率化ははかれるのだが、水平的な連携は弱くなりがちだ。クリエイティブセンターは、組織を横断して活動している点においてもユニークな存在だ。
例えば、ある領域で培ってきた先進的な技術について、ほかの領域に活用することができる。
「インターフェースの研究開発で培ってきたサービスデザインのノウハウを、ソニー生命のリモートコンサルティングシステムの開発に役立てるといったことも進めています」(石井さん)
分野を横断して全体とかかわれるという立ち位置も、クリエイティブセンターの特色の1つだという。
ソニーの事業領域は、今後ますます広がっていくが、それを横断的につないでシナジーを出していくのは、クリエイティブセンターが担っていくべき役割の1つでもある。「“クリエイティブハブ”と呼んでいるのですが、その幅を広げ、奥行きを深めていくのが課題の1つです」(石井さん)。またクリエイティブセンターでは「ブランディングの一環として、コーポレートビジョンをデザインする仕事が増えています」(石井さん)。
ブランディングにまつわる仕事は、外部のコンサルティング企業や広告代理店などが入って進めることが多い。が、ソニーでは、クリエイティブセンターという内部組織がかかわるというのだ。内部ならではの深い理解がブランディングに有効であること、企業の全体像を俯瞰したうえで、各社のブランディングが行えることなど、いい効果が見えてきているという。
筆者は仕事柄、経営トップに話を聞くこともあれば、さまざまなデザイナーに話を聞くこともある。そこに共通しているのは「未来を見つめる眼差しを持っていること」だ。
経営トップは、未来へ向けた方向づけをして、人や組織を動かしていく、かたやデザイナーは未来に向けた方向づけを、言葉や視覚を通してカタチ化する。経営にデザイナーが関与するのは、ブランディングに寄与するところ大と思ってきたので、これは腑に落ちる話だった。
では、クリエイティブセンターでは、どのようにブランディングを進めるのか。
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