「基本的にはユーザーがどうとらえるか、そこを起点に考えるのです」(石井さん)。デザイナーというと、自分の世界を表現する人ととらえられがちだがそうではない。あくまで使い手の視点に立って、概念だけでなく、カタチ化するところまでを担う役割――クリエイティブセンターには、そういう共通認識があるという。
企業内の会議でありがちなのは、交わされる議論が、企画書の起承転結のつけ方や、微細なデータや言葉使いの吟味に陥ってしまうこと。だが、クリエイティブセンターでは、議論が白熱しても、それが概念や企画書で終わることはない。抽象レベルで終わらず、実際のカタチ化するところまでを行っているからだ。
クリエイティブセンターは、昨年60周年を迎えた。もともとは、ソニーの創業メンバーの一人である大賀典雄氏が、デザインとブランドを見る組織として作ったという。業容が広がるに従い、組織の位置づけや規模の変化はあったものの、そのポジションを変わらず取り続けてきた。
戦後から高度経済成長の波にのって拡大してきた企業の中で、こういう組織が継承されている事例は数少ない。そう考えると、クリエイティブセンターの存在そのものが、ソニーという企業の独自性の一角をなしていると言っても過言ではないだろう。
EVにおけるソニーらしさとは?
2020年に発表された「VISION-S」は、「あのソニーがEV車に挑戦した」と大きな注目を集めた。その姿勢も含めて「ソニーらしい」と国内外で高い評価を得たのだ。
始まりは2018年のこと。
「ソニーが持っている技術やサービスの強みを、モビリティの領域で活かせるのではということから、EVに取り組んでみようという話が出て、先行してクリエイティブセンターでもスタイリングだけでなくUXやブランド考察を含め、さまざまなアイデア展開を始めました」(石井さん)
安心・安全な走行を支援する「センシング」、アップデートによる進化の土台を担う「ネットワーク技術」、オーディオビジュアルやゲームなどの「エンタテインメント」、3つの領域におけるソニーの独自性を盛り込み、これからの社会で求められていくモビリティの可能性を追求することになった。
そのプロジェクトのクリエイティブディレクターにアサインされたのが石井さんだ。傍から見ると、最初から外部のカースタイリングのスタジオに委託して進めるという手もあったのにと思うのだが、あえてその道を選ばなかった。ソニーのデザイン力を信じ、クリエイティブセンターにデザインを任せたという上層部の判断があったのだ。
では、どのように進められたのか。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら