ソニーがEV初参入へ見せた大胆な「らしさ」の凄み “中の人"が語る「なるほど」な独自性の生み出し方

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ゼロから生み出していくプロジェクトということで、まずはどこを目指し、どういうユーザーに向け、どういうものを作っていくのかといった全体構想を、文字とビジュアルで構成する冊子にまとめた。石井さんは「夢物語のようなものを描いた」というが、表層的な夢でないことは、話を聞いているとよくわかる。

未来の社会と人の暮らしを思い描きながら、圧倒的な魅力を放つクルマとはどんな存在か。そこにソニーの独自性をどう盛り込み表現するか。いわば、このプロジェクトのフィロソフィーのようなものをまとめたのだ。この段階で、根幹となる部分を徹底的に審議し、冊子として凝縮したことは、後々、役立ったという。プロジェクトの途上で迷ったとき、そこに立ち返って確認するツールとして機能したのだ。

プロジェクトを進めるうえでいくつかのターニングポイントもあった。さまざまな意見が出る中で、その冊子のコンセプトに立ち返って考え直し、ユーザーから見た新たなソニーらしさの象徴として、「ソニーの技術の結晶体、テクノロジーショーケースにする」と改めて方向性を確認し、アメリカ・ラスベガスで行われるエレクトロニクス関連の展示会、CES(Consumer Electronics Show)で発表することにしたという。

モーターショーなどで展示される、いわゆるコンセプトカーは、未来に飛翔するアイデアが盛り込まれているものの、実現性に乏しいものが少なくない。しかしソニーでは、走行はもとより、現存の基準や規定を充たすことのできる「本物」をデザインすることにした。ここにも「ほかにはない独自性を徹底して追求する」というソニーの精神が現れている。

マグナ・シュタイヤーと協業、多様性のある「審議」に

クリエイティブセンター内では、極秘プロジェクトとして進められていたが、開発にあたっては、オーストリアに拠点を置く自動車製造業者のマグナ・シュタイヤーとの協業体制で行われた。欧州のさまざまな国籍のメンバーも入り、まさに多様性のある審議を重ねていったのだ。「社外の人と意見を交わしながら、『本物』を作っていくのは、とても楽しい経験にもなりました」(石井さん)

「最後に悩んだのはブランディングとしてのシンボルマークの表現の部分」だったという。「VISION-S」というブランドの思想を、どう表現するかについて議論を繰り返したのだ。チームメンバーでアイデアを出し合いながら進めたが、いい案がなかなか出てこない。

最後に出てきたのが、EVならではの、電気回路図の図記号からインスピレーションを得た「S」の文字を、フロントに付いているデイライトに埋め込むというもの。「VISION-S」のキーを解除すると、そこから光が放たれ、側面、ドアハンドル、テールランプへと巡っていく。

キーを解除すると、フロント真ん中の電気回路図の図記号からインスピレーションを得た「S」から光が放たれ、テープランプへとぐるっと巡っていく(写真:梅谷秀司)
後方から見た「VISION-S Prototype」(写真:梅谷秀司)
今年の「CES 2022」ではSUV試作車「VISION-S 02」も発表
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