御嶽山への自衛隊派遣、口を挟むとサヨク? 必要なのは事実に基づく冷静な議論

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そもそも情報の分析は、疑うことから始まる。「噴火に際し、被災者の救出には装甲車が不可欠である」という持論を「絶対真理」であるとして、それを批判する論者を認めずに攻撃することは、ジャーナリズムとはいえない。限られた情報の中では多様な議論があっていい。

「常に自衛隊は正しい」という結論ありきの人達は、本稿で述べたような自衛隊装備や組織の問題点を、事実に基づいて考えることはない。今回の出動で良かった点は評価するべきだが、問題点を指摘したり、より有用と思われる提案をしたりすることで議論が活性化する。そして、自衛隊の組織や装備をよりよいものにしていく原動力にもなる。疑問や批判は許さないという態度では、建設的な議論は生まれない。

御巣鷹山事故でも無責任な投入論が多かった

かつて御巣鷹山の日航ジャンボ機墜落事故では、「有識者」と称する人達の中に、なぜ事故直後の夜間に自衛隊ヘリを飛ばさなかったのか、空挺部隊を投入するべきだった、と主張した方々がいた。だが当時の自衛隊のヘリには夜間、特に山岳地帯を飛行する暗視装置は装備していなかった。また夜間の山岳でのパラシュート降下もこれまた自殺行為で、部隊が全滅の憂き目あうような二次災害を起こしただろう。

自分は軍事に詳しいという自負が過剰にあり、自衛隊は常に正しい、何でもできるとの思い込みで江川氏を攻撃した人達は、筆者からみれば上記の「有識者」と同類だ。

自衛隊の能力に対する過度な期待が世論の主流となれば自衛隊にとっては心理的な圧力となるだろう。そうなれば、「できません」とは言えなくなる。その「期待の声」に応えようと無理な作戦を行うようになり、無用な犠牲者を出す可能性も増えてくる。それは自衛隊の強化を繋がらない。

しかも、ネット上での批判は実名を隠し、徒党を組んで行う傾向があるのでたちが悪い。それほど自説に自信があるのならば、堂々と実名で相手を批判してはいかがだろうか。東洋経済オンラインの読者には、軍事関係において巻き起こりがちな、エビデンスのない思い込みの論評を冷静に見定める、リテラシーを持ってほしい。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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