噴火に際して装甲車が有用なのは主として火山弾に対する防御力であり、また履帯をもった装軌式装甲車は、不整地踏破能力が高いので、火山弾や火山灰の中でも走行がある程度可能であることだ。
かつて雲仙普賢岳の噴火において60式装甲車が使用されたのはそのような理由からだ。ある論者は、現在でも60式を利用できるかのように主張しているが、60式はすでに退役しており、後継の73式装甲車の装甲は鋼鉄製ではなく、より熱に弱いアルミ製である。たとえ60式が使用できるとしても、同形式にはNBC(核・生物・化学兵器)に対処する防護能力が装備されていないため、外気を濾過するフィルターもないために乗員は粉塵を吸い込むことになる。
今回、陸自が使用した装甲車は装軌式の89式装甲戦闘車だった。ただし進出したのは他の車両と同様、登山道入り口の7合目まで。装甲車では険しい山道を山頂まで登ることはできない。装甲車がどんな地形でも登れるわけではないのだ。
本来、必要なのは装甲野戦救急車
投入された89式はわずか4輛である。89式に搭乗できるのは車長、操縦手、砲手以外に下車歩兵が7名。だが救援の隊員も搭乗しているので、登場可能な被災者はせいぜい4名前後だ。重篤な被災者を運ぶため担架を載せるならば、搭載できる担架はせいぜい2つで、運べる被災者は担架に載せた2名だ。結果をみても、今回は自衛隊自身、装甲車の活用に重きを置いていなかったことが分かる。
救難を目的とする場合には、「装甲野戦救急車」が有用だが、自衛隊には一輛も存在しない(前回記事参照)。日本のODA支援を受けるトルコ、パキスタンのような途上国ですら当たり前に装備している装甲野戦救急車を、自衛隊は1輛も保有していない。筆者はこれまで装甲野戦救急車の必要を説いてきたが、今回の事態を受け、あらためてその必要性を強調しておきたい。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら