預金通帳用の紙、肉まんの裏に貼り付いた紙、タバコの巻紙、駅弁に入っているような小さく畳まれたお手ふきの紙、電車の中吊り広告用の紙、検便用の紙、スピーカーコーン用の紙、トランプの紙、パンチカード用の紙など、紙の中でも「こんなところにまで紙が」「確かにこれも紙だわ」と思わずうならされるような紙を特殊紙と呼ぶ。
今回はその特殊紙を得意とする特種東海製紙の三島工場にお邪魔するため、JR東海道線の三島駅を下りてタクシーに乗った。行き先を告げると、ドライバーが言った。
「あそこ、紙幣用の紙をつくってるんでしょう。みんな言ってますよ」
紙幣用の紙をつくっている!?
事前に得ていたなかに、その情報はなかった。本当に諭吉に一葉、漱石のすかし入りの紙までつくっているのだろうか。だとしたら、トクシュにもほどがある。ぜひ記念に何枚かいただきたい。
三島工場に着いてすぐ、工場長の影山正樹さん、前の工場長で現在は経営企画本部長である佐野倫明さんにそれとなく切り出してみたところ、即、否定。
「いえ、つくっていません。おそらく、前身となる特種製紙を大正15年に設立した初代社長の佐伯勝太郎博士が国の印刷局の抄紙部長だったことから、どうも、誤解されているようです」
そうだったのか。早とちりを反省していると、この工場の管理部生産計画課課長の室伏敬治さんがふたりへ目配せしたように見えた。本当は、つくっているのでは? つくっているけど言えないだけなのでは? 胸の奥に疑問が生まれる。
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