続いてもうひとつのきれいな紙、ビューティフルな紙の製造現場へ移動する。
ビューティフルの代表はファンシーペーパーだ。なんとも可愛らしい名前だが、お菓子のパッケージなどに使われる、多彩な色(最多150色)や豊かな風合いが特徴の紙だ。ファンシーペーパーは、書籍の扉を開いてすぐの大抵は何も印刷されていない見返しと呼ばれる部分にも多く使われていて、今日まで全く知らなかったのだが、過去にボクが出した本にも、同社製のファンシーペーパーが使われていた。
ファンシーペーパーは元来輸入品だったが、この会社が一念発起して国産化を始めたのだ。
ビューティフルな紙ももともとは、シート状の紙粘土のような外見と手触りの、真っ白なパルプからつくられる。これに水を加え、パルパーという機械でどろどろにしていく。このパルパーが怖い。攪拌機のついた深さ5メートルほどの井戸といった感じで、絶対にこの中には落ちたくない。
ともあれ、十分にパルプが叩解されたら次のステップは色づけだ。染料を混ぜ込むのである。
ファンシーペーパーは文学全集などの函にも使われるが、刊行時期が違うからと函の色が異なっては全巻揃えた人が怒るだろう。ボクなら怒る。
なので、何度つくっても同じ色になるようにしなくてはならない。しかも、毎回同じように、真っ白なパルプを色づけしていけばいいというわけではない。色を付けて抄いた紙を原料として再利用することもあるからだ。
目で染料の量を決定
「結局は専門の人間がその都度、目で判断して染料の量を決めます。染料は、0.5グラムでも多かったり少なかったりすると色が違ってしまいます」
ごく僅かな塩の加減で吸い物の味ががらりと変わると聞いたことがあるが、それに近いのだろうか。
「0.5グラムというのは、860キロに対してです」
とんでもない精度だ。神の舌の持ち主も、860リットルの湯に0.5グラム多く塩が入ったかどうかは、区別が付かないのではないか。染料担当者は、神の目の上を行く目の持ち主だ。
その神以上の目の持ち主がゴーサインを出して紙の原料に色がつき、あとは抄紙機にかけるだけとなった状態をタネと呼ぶ。色はさておき形状は、焼く前のホットケーキのタネに似ている。
タネは、漢字で書けば種。特種東海製紙の特種が特殊ではなくて特種なのは、ここからきている。
先ほど見せてもらった15号抄紙機が多彩な用途の紙を抄き分けられるのは、タネと抄紙の条件をしっかりコントロールしているからだ。
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