せっかくなので名刺交換がてらお話をしてみたいのですがと申し出ると、「彼らは名刺を持ちません」。
つまり、秘中の秘なのだ。彼らは名を伏せて奥の院の御簾の中で、すかし用の網を縫い続けている(イメージ)。2020年の東京五輪の入場券の紙のためにも、彼らが網を縫うことになるのではないか。
それにしても、すかしということはやはりあの噂は……。
ボクは今回の取材を取り仕切ってくれた、執行役員で特殊素材事業グループ営業本部長の大沼裕之さんに聞いてみた。本当は、紙幣用の紙をつくっているのではないですか。
とたんに、にこやかだった大沼さんが真顔になった。
答えは、やっぱりつくっていない。ここで紙幣用のすかし入りの紙をつくっているというのは、正真正銘、三島周辺の都市伝説だったわけだ。
ホログラムの抄きこみも
そもそも、紙幣に使われている「黒すかし」は2013年まで民間ではつくってはいけないルールになっていたそうだ。それでも都市伝説が生まれたのは、すでに触れた創業者の経歴のほか、これまで同社があまり取材に応じてこなかったせいではないかとのこと。
さらに、紙幣に匹敵するような紙をつくっているのも噂の理由かもしれない。商品券用や小切手用など、ホログラムや蛍光繊維を抄きこむなど、偽造防止仕組みを徹底的にほどこした紙もこの工場ではつくっている。どこの抄紙機でどんな風につくっているかはセキュリティの都合で内緒だそうだ。
社員の皆さんがどこかもじもじして見えたのは、ボクがその抄紙機も見たいと言い張ったら、どう断るかを考えていたかららしい。
ただ、つくっているところを見ても、そう簡単に真似できるわけではない。偽装するには抄紙機を買う必要があるそうで、つまり、事実上偽造は無理なのだ。
ただ、特種というミステリアスな名称と網縫という見えない存在には、紙幣用の紙をこっそりつくっているという都市伝説はふさわしいのではないかと勝手に思う。帰りのタクシーでドライバーに「紙幣用の紙をつくっているところを見てきたんだけど、あれはすごいね」などとホラをふいてみたくなった。もちろん未遂です。
(構成:片瀬京子)
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