「数学嫌い」の人は暗記教育の犠牲者といえる理由 公式ばかりを覚えて本当の楽しさを知らない
リベラルアーツ学群での来年度の筆者のゼミナールは、定員10人のところ20人の参加で構成されることになった。リベラルアーツ学群らしく、さまざまな専攻から学生が集まり、数学、コミュニケーション、ビジネスエコノミクス、心理学、生物学、情報科学、哲学、環境学からなる。
ゼミナールで支柱となる書は、ちょうど1年前に出版した『AI時代に生きる数学力の鍛え方』で、暗記でなく理解の学びの意義と数多くの応用例を紹介している。その書でも触れたことであるが、理解するからこそ応用力が育まれることを示す一例として、曜日に関する性質を説明しよう。
たとえば2021年と2022年は平年なので、365日ある。そして1週間は7日なので、365÷7=52あまり1と計算してあまり1に注目すれば、「今年と来年の同一日を比べると、来年は曜日に関して1日進んでいる」ことになる。
この結論だけを暗記するのでなく、この理由を理解しておくと、「平年では1月から9月までの13日には必ず金曜日がある」ことが以下のように考えてわかる。
1月は31日で、31÷7=4あまり3なので、2月13日は1月13日から曜日で3日進む。以下、同様に考えて、9月13日は8月13日から曜日で3日進む。このように考えると、1月から9月までの13日には全部の曜日が現れることがわかる。
数学を理解するスピードには個人差がある
余談であるが、40年間近く親交のある理容師・美容師として活躍しているスタイリストの方に上の話をしたところ、次のことを言われたことが忘れられない。「髪のカットの仕方だけ覚えていても(理容師・美容師の)資格はとれます。しかし、『なぜ、そのようにカットするのか』という理由を理解しているか否かによって、その後の発展に大きな違いがありますよ」。
筆者は90年代半ばごろに数学から数学教育に軸足を移し、その後いろいろな書や記事によって数学教育に関する提言を出してきたが、70歳という年齢も近いことから、大きな提言はそろそろ慎重に述べるべきかもしれない。
しかし、本稿の最後にぜひ訴えたいことがある。それは、算数・数学の内容を理解することには、個人差がかなり大きい。ゆっくり理解しても何ら問題はないはずだ。それにもかかわらず、ゆっくり理解する生徒には、早々と暗記だけの学びを仕向ける教育が蔓延していることは残念でならない。日本の将来を考えて、きめ細かい算数・数学教育ができるように対策を講じてもらいたい。
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