子どもの死因「添い寝が危ない」という衝撃の事実 CDR(チャイルド・デス・レビュー)とは何か

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「国のモデル事業になる前は、委員会のスタッフはみんな手弁当でやっていました。国の事業となってCDRという存在が広く周知されただけでなく、予算も付いたので本当に助かっています」

一杉さんはこう言って、モデル事業化されたことを喜ぶ。

「CDRは誤解されやすいところもあります。それは、個人の死因を調べることで、子どものプライバシーが侵害されないかという点。また、死因に家庭環境が絡んでいる場合、両親や家族の責任が追及されることを危惧する声もあります。もちろん、CDRでは、亡くなった子どもを特定することもなければ、責任を追及することもありません。モデル事業として認められたことで、CDRに対して正しい理解が進むことを期待しています」

軌道に乗り始めたように思えるCDRだったが…

ただ、軌道に乗り始めたように思えるCDRだったが、早くも暗雲が立ちこめている。

というのも、厚生労働省は2021年度のCDRのモデル事業にある制限を設けたのだ。それは、「警察の司法解剖の情報は用いない」「保護者の同意が必要」というものだ。「これでは調査に必要な情報が集まらない」と一杉さんは憤る。

「たとえば、虐待が疑われるケースでは、その死因は警察が捜査したり、司法解剖をしたりすることで初めて実態が明らかになります。まして、〝保護者の承諾がなければ死因を聞き取ることができない〟ということであれば、調査することが不可能になります」

実際、今年8月、滋賀県大津市で起こった女児暴行死では、当初はジャングルジムから転落した事故死と見られていた。しかし、その後の司法解剖の結果、虐待が疑われる傷が多く見つかった。その後、兄が傷害致死の疑いで捕まり、母親も覚醒剤取締法違反などの疑いで逮捕されている。

「このようなケースであっても、保護者の同意がなければ調査できないというのはいかがなものか。それでは虐待死の予防につながりません」 

これについて担当する母子保健課はどう考えているのか。問い合わせると、2021年度のモデル事業では司法解剖を取り扱わないことにした理由を、「警察の捜査中のものや、公判中のものもあり、捜査や公判に影響する可能性がある」と話す。

保護者の同意については、「子どもの死の背景に関することはかなり機微な情報ですから、勝手に情報を扱うのではなく、グリーフケアや遺族のケアなどとセットであることが大事だと考えている」という。一方で、虐待などで親の同意がむずかしいケースに対する調査、検討については、「今後の検討課題」と答えた。

課題も多いが、重要度も高いCDR。一杉さんは今回の調査、検証から、「亡くなった事例の3割は予防できた可能性がある」と考察する。

「今は地域、あるいは警察、医療機関、教育機関の協力体制のもとで連携をとっていますが、いずれは玩具メーカーや育児用品などを扱う小売業などにも加わってもらい、子どもの死を防ぐ手段を共に考えるということもありうる。いずれにせよ、CDRは継続する必要がある事業だと思っています」

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