「毎年20トン売れる焼き芋」を作る限界集落の衝撃 「宮下さんちの焼き芋」全国で愛される理由とは

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限界集落で仕事をすることは、地域と共に歩んでいくことでもある。大野原集落では一時期害獣被害が深刻で、サツマイモ畑を猪に食い荒らされる被害が相次いでいた。そこで、国からの予算を確保して地域全体をメッシュの柵で囲う対策を行った。

猪に食べられたサツマイモ(著者撮影)

「おかげでほとんど猪が入ってこなくなりました。市役所の皆さんが親身になって予算確保のため一生懸命動いてくれました」

もちろん宮下さんを始め、集落の人たちもすべて行政任せではない。例えば道路が古くなっているときなどは「自分たちで道路を直す作業をするから、コンクリート代を出してもらえないか?」とお願いする。困りごとは行政に相談しつつ「できることは自分で」の精神がある。

「この土地は元々、大正大噴火で移住してきた人たちが開拓した集落で『自助・共助・公助』のスピリットがあります。いい意味で小さいから、お互いの顔がよく見えています」

「地域全体が焼き芋で盛り上がれたらいいなと思って」

宮下さんちの焼き芋が売れるようになった後、地元大野原集落の人たちにも焼き芋の焼き方から使っているオーブンの種類まで惜しみなく教えた。企業秘密ともいうべきノウハウを公開したのは、地元に対する宮下一家の思いがある。

「周りが頑張れば、うちももっと頑張ろうと思えるし、せっかくだから地域全体が焼き芋で盛り上がれたらいいなと思って」

宮下商店初代の美行さんは戦後の1950年、この土地に宮下商店を構えて、集落の世話役として地域密着で仕事を展開してきた。その精神は2代目省司さん、3代目直弥さんに受け継がれて続いている。

「最初に地元の人たちが買って広めてくれたことで、北海道から沖縄まで広がりました。これからも地元を大事に焼き芋の販売を続けていきたいです」

2020年に垂水市の介護施設でクラスターが発生したときには、集落一同で焼き芋を送って医療関係者を労った。今年2021年は今までにないサツマイモ基腐(もとぐされ)病の流行で、大野原集落でもサツマイモの収量が2割弱ほど落ちている。

「収穫量が減ると作る意欲も減ってしまいますよね。『もうやらん』とがっくりきている人もいます。基腐病も集落全体で対策をしていかなくてはいけません。解決の道筋は手探りですが、地域で協力し合ってこれからも取り組んでいきたいと思っています」

横田 ちえ ライター

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よこた ちえ / Chie Yokota

鹿児島在住。WEB・雑誌での執筆のほか、企業のオウンドメディア運営やパンフレット製作など幅広く活動。日ごろから九州を中心に全国あちこちを巡り、取材テーマを模索している。最近特に力を入れているテーマは離島や温泉。

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