「毎年20トン売れる焼き芋」を作る限界集落の衝撃 「宮下さんちの焼き芋」全国で愛される理由とは

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宮下商店が焼き芋の販売を始めたのは、2008年。大野原集落に昔から伝わる「つらさげ芋」を生かした取り組みだった。

集落では冬になると、サツマイモの蔓を束ねて軒先に吊るす「つらさげ芋」が盛んに行われる。1カ月以上寒風に晒すことによって芋の水分が抜かれ、デンプンが糖に変化して、甘く持ちのいいサツマイモに変化するのだ(※現在はつらさげ芋だけでなく湿度・温度管理を行った倉庫で1カ月以上熟成させた「熟成芋」も使っている。つらさげ芋と同じ位甘くておいしい)

「つらさげ」とは、方言で芋の蔓を「つら」と呼ぶことからついた呼称(提供:宮下商店)

糖度の高いつらさげ芋は、焼き芋にぴったりだった。

「集落の人たちは、つらさげ芋をゆでたりふかしたりして食べていました。でも焼き芋にする人はいなかったので、やってみようと始めました。焼き芋は持ちもよくなるし、味や匂いも全然違う」

焼きたてのサツマイモは蜜が垂れて、香ばしく甘い匂いがする(筆者撮影)

いろんな焼き方を模索した。機械を買って石焼き芋にもチャレンジしたが、外がパリパリになりすぎた。最終的に芋のしっとりねっとり感が生きるガスオーブンを採用。そうしてできたものを「宮下さんちの焼き芋」の名前で販売開始した。

ホクホク系からしっとり甘い系へ

しかし焼き芋の販売は、順調な滑り出しではなかった。店先と垂水市タイヨーの地産地消コーナーで販売したが、最初の頃は全然売れなかったという。

「10パック並べて2パックしか売れない日が続きました。でも買った人がおいしいと思ってくれたんでしょうかね。徐々に全部売れるようになりました」

「宮下さんちの焼き芋」(筆者撮影)

その少し前、焼き芋の世界にも変化が起きていた。1990年代後半ごろからサツマイモの品種改良が進み、従来のホクホクした食感のサツマイモから、しっとりねっとりとして甘みの強い品種が生まれていた。

その代表格・安納芋(1998年品種登録)の誕生によって、人々の焼き芋への認識に大きな変化が起きた。スイーツ感覚で食べられる焼き芋は、わざわざ店や通販で買い求めるものに。さらに、健康志向の高まりもそれを後押し。焼くだけのシンプルな調理法の焼き芋は、ヘルシーでおいしいおやつとして注目を集めるようになっていた。

宮下さんちの焼き芋はそのような背景の中、誕生した。時代の潮流にのって徐々に人々から愛されるようになっていく。

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