働きバチのあまりに儚い一生を私たちも笑えない 一生かけてスプーン1杯に集めるハチミツの重み

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戻ってくるものもいれば、戻ってこられないものもいる。それがミツバチたちの日常だ。

そんな過酷な仕事を、とても経験の浅いハチにまかせるわけにはいかない。このときこそ、経験豊かなベテランのハチの力の見せどころなのだ。老い先の長くないハチだからこそ、巣のためにできることがある。最後のご奉公として、仲間のために、次の世代のために、危険な任務を担うのである。

老いたミツバチはかいがいしく花から花へと飛び回り、蜜や花粉を集めれば、巣に持ち帰る。そして、再び、危険な下界へと飛び立つ。

これを休むことなく来る日も来る日も繰り返すのである。

働きバチの寿命はわずか1カ月余り。

目まぐるしく働き続けた毎日も、やがて終わりを告げる。

女王バチは1日数千個の卵を産む

危険を覚悟で飛び立った働きバチは、どこか遠くで命が尽きる。それはお花畑かもしれないし、そうではないかもしれない。

『文庫 生き物の死にざま』(草思社文庫)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

ミツバチの巣は何万もの働きバチで構成されている。毎日、おびただしい数の働きバチが、どこかで命を落としていることだろう。しかし、それでいいのだ。女王バチは、1日に数千個もの卵を産む。そしておびただしい数の新しい働きバチたちが、デビューしてくるのである。

1匹のミツバチは、働きづめに働いて、やっとスプーン1杯の蜂蜜を集める。

そういえば、労働時間が長く、休みなく働く日本のサラリーマンは、世界の人々から「働き蜂」と揶揄(やゆ)されていた。

そんな日本のサラリーマンの生涯収入は平均2億5000万円。億単位のお金だからものすごい金額に思えるが、札束にしてみれば事務机の上に簡単に置けてしまう。大きなボストンバッグに入れれば持ち運べてしまうサイズだ。

われわれも一生、働いてみても、ミツバチの集めたスプーン1杯の蜜を笑うことはできないのだ。

稲垣 栄洋 静岡大学農学部教授

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いながき ひでひろ / Hidehiro Inagaki

1968年静岡市生まれ。岡山大学大学院修了。専門は雑草生態学。農学博士。自称、みちくさ研究家。農林水産省、静岡県農林技術研究所などを経て、現在、静岡大学大学院教授。『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『都会の雑草、発見と楽しみ方』 (朝日新書)、『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方』(亜紀書房)など著書50冊以上。

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