マリノスサポーター「バナナ事件」を考える 第9回 対症療法的な日本、社会に踏み込むドイツ

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日本企業における「スポーツ」の活用はあくまでも自社のためだが、ドイツのこのケースを見ると、経済と社会の間の大切な関係を促進するという部分でスポーツの価値を活用している。

より広い視野での議論を

地域や企業でスポーツの価値を用いた取り組みは、結果的に社会全般における人種や同性愛者の差別をなくす動きにつながるだろう。そもそも差別問題は何もサッカーの試合会場だけで起っているわけではない。それは日本でも同じことだろう。

 スポーツにおけるいじめや体罰の議論や取り組みをみていると、日本では対症療法的なアプローチしかできないような気がしてならない。さらに日本社会も国際結婚などが進み、外国のルーツを持った人も確実に増えてきている。それに伴い「部活」をはじめ、スポーツの現場もリアルに多様性が進んできているはずだ。

 そういう状況を考えると、スポーツが持つ平等、公平、敬意、寛容といった価値を積極的に展開すべきだろう。ドイツでも外国系市民との社会統合はまだまだ途上だが、「社会のなかのスポーツ」という、より広い視野での議論が必要だということはうかがえる。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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