マリノスサポーター「バナナ事件」を考える 第9回 対症療法的な日本、社会に踏み込むドイツ

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外国系市民との社会統合について、継続的な議論や取り組みが行われていることは先ほど触れたが、このプロジェクトを見ていると、行政、教育機関、スポーツクラブなど地域全体で社会的な課題に対し、スポーツという切り口から取り組んでいる様子がうかがえる。

企業の社会的責任をサッカーで

日本企業では「体育会系」の学生が優遇される傾向があったが、これは上下関係や愛社精神にちょうどよかった。またスポーツ選手の活躍は、学校名や企業の知名度のアップにも貢献する。そんな事情から日本でスポーツマンが好まれる。

 面白いのはドイツの企業にもスポーツが活用されるケースがあることだ。ただ日本の事情とは異なり、スポーツにある公平、平等といった価値に着目される。

 ニュルンベルク市および周辺地区管轄の商工会議所は数年前から企業向けにCSRの啓発活動でサッカーを応用したものを展開している。同商工会議所が発行した約40ページのブックレット『サッカーとCSR、ダブルパスで』はドイツサッカー文化アカデミーと共同で作ったもので、マンハイム大学教授、ニック・リンヒ博士が執筆したものだ。

 経済とサッカーの中で重要なのは「フェアプレー」であり、スポーツマンらしからぬ態度は損失につながる。社会を犠牲にし、自分の利益だけ実現した無責任な行動は、結果的に企業自身の自由を奪う。そして存在条件そのものが危ぶまれる。公平性と責任を受け入れることは成功への投資であり、それで「(市場の中の自由競争という)ゲーム」の中にいつづけられるというわけだ。

 冊子では「公正な行動を選手に促すこと」(サッカー)は「従業員にCSR研修を行うこと」(経済)、「危険なプレー」(サッカー)は「安全基準の無視」(経済)に相当するなど、サッカーと企業の対比もなされている。

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