岸田政権「PCR検査無料化」気がかりなポイント 誰でも自由にタダで受けられるわけではない?

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聞くところによれば、政府案では、都道府県が無料PCR検査の「予算化・事業準備」を行い、国に「検査促進計画」を提出する。国は「適宜協議」に応じ、あとは「審査・承認」するだけ、という立て付けになっているという。感染拡大傾向の判断基準などは示されないようだ。

これが本当なら、肝心なところで国は何も決めなくていいシステムである。新型コロナワクチンの普及に自治体間で差が出たように、都道府県の力量差が表れてくるだろう。感染拡大局面の察知や判断が遅れれば、影響を受けるのは住民だ。

実効性を上げるために絶対に避けるべきこと

もう1つ気になっているのは、検査の実施方法だ。私は、今こそ「自宅でできるオンラインPCR検査」を普及させる時だと考えている。

すでに民間サービスでは、郵送による自宅PCR検査が一般化している。医療機関等へ出向く手間も時間も省くことができ、利用しやすい。

もちろん、それをそのまま無料化することはできない。「素人では、直接指導がなければ手順を間違えるなどして、適切に検査が行われない可能性がある」「キットの買いだめや転売、不正使用を防止しなければならない」といった指摘はあるだろう。

だが、だからといって医療機関や薬局等での「対面」検査に限るのは、極端で安直だ。感染が再び拡大してくれば、医療現場は診療で手いっぱいとなる。無症状者の検査まで対面が原則なら、キャパオーバーは必至だ。

検査の間違いや不正は、オンラインで本人確認しつつ実施してもらうことで、対面と同程度に防げる。本人確認が徹底されれば、検査キットは郵送でも不正は起こしにくい。結果はメール伝達を基本とし、データの利活用にもつなげたい。

新型コロナを契機に、世界的に医療は一気にオンライン化が進んだ。国内でも初診からのオンライン診療・服薬指導が認められ、来年度からの恒久化も決まっている。技術やシステムも急速に整う中、検査だけが、受ける側にも行う側にも負担の大きい「対面」でなければならない理由はない。

PCR検査無料化は、感染拡大の防止と社会不安の解消、それによる経済社会活動の回復を意図したものだ。であれば、検査へのハードルを上げてはならない。対面検査はオプションにとどめ、「原則」化すべきではないだろう。

岸田首相は10月の所信表明演説で、「予約不要の無料検査の拡大に取り組む」と明言した。その後「PCR検査無料化」の一報で、新政権への期待を高めた人も多いはずだ。オンライン化が、その明暗を分けるに違いない。

アピールで終わらない、岸田首相の本気を見てみたい。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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