東京都では7月後半から新型コロナウイルスの感染が急拡大した。8月前半には多くの人々が、人流を大幅に削減しなければ感染は減少しないと主張した。ロックダウンを求める声もあった。
現実には8月中旬から多くの人流データは増加に転じた、もしくは下げ止まったにもかかわらず、感染は急速に減少した。東京都での1日新規感染者数(7日間平均)は8月19日には4774人であったが、その1カ月後の9月19日には815人、2カ月後の10月19日には52人である。この記事を書いている現在もまだ減少は続いている。
この急速な感染減少の要因に関してさまざまな推測・仮説が提示されているが、それらの定量的重要性を探った分析はあまり提示されていない。今後さまざまな分析が提示されてくると推測するが、現時点では、10月19日に発表された名古屋工業大学の平田研究室(平田晃正教授)の分析「7〜9月における新規陽性者数の増加と減少について」とわれわれが今回公表した分析の2つである。
この論考では、われわれのレポートの要旨を読者の皆様にお届けしたい(別府その他〈2021〉「東京での感染減少の要因:定量分析」)。
ワクチンだけが感染急減の要因にならない
重要ポイントは、以下の4つである。
1.ワクチン接種は7月後半から感染を抑制させる大きな力を継続的に働かせているが、それだけでは8月後半からの感染減少のタイミングと急速さは説明しにくい。
2. 基本再生産数の過大評価・医療逼迫に伴う人々のリスク回避行動・120日周期の存在は、その1つひとつが感染減少の多くを説明することが可能である(だからと言ってこれらが正しい仮説とは必ずしも言えないことには留意)。
3. 仮説によっては、今後の見通しは大きく改善する。
4. どの仮説が正しいかにかかわらず、「追加的な人流抑制をしなくても感染が急速に減少することもある」ことが判明したことは、今後の政策に大きな含意がある。
この分析の出発点は「感染減少が始まる直前の8月中旬に人流データを重要視していたら提示したであろう仮想の感染見通し」である。過去のデータから推定されたわれわれのモデルの接触率パラメーターと人流データにはある程度の相関関係がある。
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