7月後半・8月前半、東京都で新型コロナウイルスの感染は急拡大した。東京都での1日あたり新規感染者数(7日間平均)は7月20日には1180人であったが、1カ月後の8月19日には約4倍の4774人にまで急上昇した。
この時期には、強い人流抑制政策・行動制限などをしないと感染は減少に向かわないのでは、という主張が多方面からなされた。ロックダウンを求める声もあった。しかしながら、現実には政府による強い追加的行動制限をせずに、そして多くの「人と人との接触」の指標(滞留人口データ等も含むが、ここでは人流データと呼ぶ)が上昇する中で、感染は急速に減少した。9月25日現在の7日間平均は500人を切っている。
この論考では、これまでの人流データと感染の相関関係を振り返り、コロナ感染のデータ・モデル分析を政策判断に活用していく際の注意点を読者の皆様と共有したい。この論考は、2021年9月27日発表の筆者らと藤井大輔、森田勝博(東京大学)による共同レポート「コロナ感染と人流の相関関係」に基づいている。
重要ポイントは5つだ。
(2)相関の強い人流データでも実効再生産数の変動の4割ほどは説明できない
(3)相関は必ずしも安定していない
(4)相関は因果を必ずしも意味しない
(5)多様な視点から分析することが重要である
相関関係の有無・強さ
感染は人と人との接触で広まるとすれば、人がどのくらい活発に動いているかと関連しているデータの変動は、感染とある程度の相関関係があるのではないかと考えられる。
東京都における「人の動き」に関連するデータは数えきれないほどある。そのうちの一部は報道で頻繁に紹介されており、読者の皆様にも馴染みがあるかもしれない。図1では実効再生産数との相関が強い・低いデータを3つずつ示している。相関の高いデータと実効再生産数の相関係数は0.8近くで、実効再生産数の変動の約6割を説明できる(注:回帰分析の決定係数が約0.6であるということ)。相関の低いデータは実効再生産数の変動をあまり説明できない。
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