「人流」依存のコロナ分析・政策に限界がある理由

ある程度相関関係あっても全てが因果関係にない

因果関係の有無の立証・強さの推定をするのは非常に困難なケースが多い。一見存在が当たり前のように思える東京都での人流と感染の因果関係も同様であるとみている。刻一刻と状況が変化するコロナ対策では、政策現場は因果関係をきちんと推定した研究が出てくるのを待っている余裕は必ずしもない。

従って、因果関係があるかもしれないが無いかもしれない、因果関係が強いかもしれないが弱いかもしれないという不確実性を考慮し、さらには人流抑制生み出す感染以外の様々な影響(社会・経済・文化・教育への負の影響)を考慮しつつ、総合判断で政策を決めていく必要がある。

今後のコロナ分析の指針

人流データと感染の間にははっきりとした相関関係があり、また人流が感染に影響を与えるという論理にもある程度の真実があると考えられる。従って、今後も人流データをモニタリングしていくことは重要だと考える。しかしながら、この論考で指摘したような理由で、人流データに依存した分析だけでなく、多様な仮説に基づいた分析をするのが望ましい。

東京大学の藤井大輔特任講師・仲田泰祐准教授のチームは「人流データでは捉えられない人々の行動」をかねて重視しており、特に「人々のリスク行動・個人レベルでの感染症対策が医療逼迫度によって変化する」という仮説を重視してきた(※)。

(※この仮説には実証的なサポートもある。Watanabe and Yabu (2021)「Japan's Voluntary Lockdown」)

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最近の例が7月後半・8月前半に提示してきた「自主的な行動変容による感染拡大抑制シナリオ」である。今回の東京都での感染減少はこの仮説と整合的であり、今後もこの仮説を重視する。それと同時に、これまではあまり注目してこなかったいくつかの仮説―特にウィルスの季節性・周期性を重視した仮説―を考慮した分析をするための準備作業も行っている。

データ・モデル分析は有用だが限界はある。議論のたたき台・新たな知見の提供等の価値は多少なりとも提供できると考えているが、そのためには分析を改善し続けることが重要である。筆者らは毎週説明会を開き、一般・報道の方々との対話から学ばせて頂いている。読者の皆様も、分析に関する質問・コメント・批判等を気軽に伝えて頂けるとありがたい。

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