ワクチンじゃない?謎のコロナ急減解く3つの鍵 ロックダウンなど強い行動制限なしでも急減した

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ワクチン接種が8月後半からの急速な感染減少を説明しにくいのであれば、どのような要素が説明できるのであろうか?

感染減少に貢献したかもしれない3つの要素

ここでは3つの要素を定量分析する。紙面の都合上、感染減少に大きな貢献をしたとは言えなさそうないくつかの仮説には触れることはできないが、そちらにも興味のある方々は元のレポートをご覧になっていただきたい。また、資源的・時間的制約から、世の中に提示されている興味深い仮説をすべて定量化することはできなかったことは理解していただきたい。

1.当時の想定よりも低いデルタ株の感染力

われわれは、7月最終週の感染急拡大を観察した直後に「デルタ株の感染力は想定以上に高い」と判断し、デルタ株のアルファ株に対する相対的感染力の設定を1.3倍から1.5倍に変更した。

しかしながら、デルタ株割合が増加し始めた6月下旬からの実効再生産数の推移を見てみると、7月最終週に大きな値を記録した以外はそれほど高くないレベルで推移している。7月最終週の値を、デルタ株の感染力の高さのシグナルとして捉えるのではなくほかの特別要因によるものとして捉えたほうがよかったのかもしれない。

8月中旬にデルタ株の感染力をアルファ株の1.5倍ではなく例えば1.2倍と評価していたら、感染見通しは10月第1週で約3500人減少する(図3の水色の線)。

図3:想定よりも低い基本再生産数

この仮説はより広く、標準的なモデルに考慮されていない集団免疫獲得の閾値を下げるさまざまな要素の定量的重要性を捉えていると解釈してもいい。そういった要素の例としては、個人間での免疫力の異質性・細分化されたコミュニティーの存在等などがある。

どんなに複雑なモデルも現実を単純化しており、単純化のされ方によって集団免疫獲得の閾値を過大評価してしまう可能性がある。運用しているモデルを変更せずにそういった影響を修正する1つの方法は、基本再生産数を低く設定することである。もし、モデルと現実の乖離が理由で基本再生産数が想定よりも低いと判断するのならば、図3の水色の線で示した以上に低い基本再生産数設定も正当化しうる。

この仮説が正しいとすると、今後の見通しは改善する。低い基本再生産数は、集団免疫獲得までに必要な感染者数を減少させるからだ。

2.医療逼迫による人々のリスク回避

われわれが分析を始めた昨年から重視している感染増減メカニズムの1つが「医療逼迫による人々のリスク回避・個人レベルでの感染症対策の徹底」である。このメカニズムはさまざまな研究者がコロナ危機発生直後から重要視しており、それをサポートする実証研究も存在する。

肌感覚としてこの仮説に納得感を持つ人も少なくないと考える。個人的な話で恐縮だが、8月前半に東京都で深刻な医療逼迫を理由に外出も控えた人々はわれわれの周りに少なからずいる。SNSで同様の行動変容をした人々を探せばいくらでも見つかる。もちろんまったく医療逼迫に動揺しなかった人々もたくさんいると推測するが、このような行動変容をした人々が一定数いた可能性がまったくなかったとは断言しにくい。

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