1970年代からピルの使用が広がった
くみ : 前回(フランス人の「消費行動」が劇的に変わった事情)は、コロナ以降のオンラインサービスや宅配サービスなどの多分野への浸透について話したよね。その中に、医療のオンライン化についても触れたけれど、私が思い出したのはフランスでは基本的な女性の権利と強く結びついている経口避妊薬(ピル)の話。
2020年3月にロックダウンが開始したとき、緊急時を除いて病院にも行かないように、というのも政府が伝えていたけれど、ピルについては処方箋なしで、薬局で買えることになったのよね。こういう緊急事態でもいかに政府がピルを重視しているかがわかって大きな安心感に繋がったのを覚えている。当時その発表を聞いてどう思った?
エマニュエル:特に驚きはなかったかな。1970年代初めから行われている避妊政策の延長という感じで、いたって普通のこととして扱われていたから。フランスでは、ドイツやイギリスなどと同様、1970年代当時は、違法で危険な中絶の数がかなり多かったために、女性の望まない妊娠の恐怖から解放することを目的としてピルの使用が普及していった。
保険での払い戻しが適用され、1974年以降は両親の承諾なしに未成年であっても使用が認められている。くみが言った今回の緊急事態でのピルの政策も、コロナによる社会変化への適応ということになるのだと思う。
実は、フランスではピルの使用は、2000年以降は低下傾向にあるんだ。2000年代初めに約60%の女性がピルを使用していたのに対して、2016年では36%にまで下がっている。ピルに代わる避妊方法として近年増えてきているのは、避妊リング(IUD)だ。
ピルの使用が低下した原因は、2012年に若い女性が第三世代避妊用ピルを服用したことにより、静脈血栓塞栓症を発症したとして製薬会社に対し訴訟を起こしたことが発端となり、避妊の安全性がメディアで論争されるようになったことがある。